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奈良県三郷町『奈良おもちゃ美術館』で生まれる、木のおもちゃを通じた人のふれあい

2025年3月20日、奈良県三郷町に『奈良おもちゃ美術館』がオープンしました。館内は随所に吉野杉や吉野桧などの奈良県産材が使用され、たくさんの木製の遊具やおもちゃが置かれており、木のぬくもりに溢れた空間となっています。
また、地元特産物をかたどったおもちゃや、平城京をモチーフにしたエリアなど、奈良らしい特色がふんだんに盛り込まれ、小さな子どもから大人まですべての世代の人が楽しめる施設です。
今回は『奈良おもちゃ美術館』の館内の様子や木のおもちゃの魅力を、館長の前田英隆さんへのインタビューとともにお届けします。

木の香りに包まれた「おもちゃ美術館」

「おもちゃ美術館」は郷土の自然や文化と遊びが融合した交流型ミュージアムです。『奈良おもちゃ美術館』は全国13番目、関西初の「おもちゃ美術館」として「誰もが活躍できるまちづくり」を目指す三郷町が大学跡地を整備して開館しました。元々大学図書館だった建物が活用されています。

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1階エリアには1,000冊以上の本を自由に読めるフリースペースにライブラリーカフェ「MOKUMOKU Cafe」が併設され、来館者がゆっくりとくつろげる場となっています。また、カフェの隣には、奈良県産のさまざまな樹種の丸太の椅子が置かれたスペースがあり、実際に触れながら樹種の違いを確かめることができます。

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樹齢300年を超える丸太の案内板

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奈良県産のさまざまな樹種の丸太の椅子

2階のおもちゃ美術館エリアでは、床や天井などの内装に奈良県産材が使用され、館内は爽やかな木の香りに包まれています。靴を脱いで館内に入場すると、足の裏に木のやわらかな感触が伝わってきます。

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奈良県の特色を生かした木の遊具やおもちゃコーナー

エリアに入ってまず最初に出会うのは、個性的な形をしたさまざまな樹種の自然木。木の穴に隠れた、木で出来たイモムシや、かぶと虫などを探して、昆虫採集遊びが楽しめます。

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また、「おもちゃのもり」のすぐ側にある、約2万個の吉野桧の木の玉が入った「たまごプール」は、三郷町を流れる大和川に見立てられています。川の中央に置かれたベンチは、大和川の中にある「亀岩」を模したものです。また、川の向こうには、信貴山をイメージした小高い丘が築かれています。「地域を学ぶことが、地域を愛する心を育み、いつまでもここが私の生まれ育ったまちと誇りが持てるように」というおもちゃ美術館の願いがこれらのシンボルに表れています。

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2万個の吉野桧の木の玉が入った「たまごプール」

また、「ごっこファーム」では、大和丸なす・大和いもなどの大和野菜をはじめとする百点以上の地元農産物を収穫して木製キッチンでお料理ごっこができます。もちろん野菜も果物もすべて木でできています。

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平城宮朱雀大路をイメージした「おもちゃの平城京」では、通路の両側にさまざまな木のおもちゃのコーナーが並んでいます。自分好みの具材を選んでハンバーガーや関西ならではのお好み焼き、たこ焼きを作ることができる「お店やさんごっこ」のコーナーだけでなく、ドミノ倒しができる五重塔、かわいい鹿のドールハウスなど、奈良にちなんだおもちゃ遊びが楽しめます。また、ついつい大人も夢中になってしまう、昔懐かしいけん玉やコマ回しなどの伝承遊びのコーナーも来館者に好評です。

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ほかにも0歳から2歳の子どものための「赤ちゃん木育ひろば」や、「おもちゃコンサルタント」※により全国から選ばれたおもちゃを集めた「グッド・トイルーム」、テーブルサッカーをはじめ、世界中のボードゲームで遊べる「ゲームのひろば」など、魅力あるおもちゃがたくさんあり、一日では遊びきれないほど。
さらに吉野桧で作った2000ピースの積み木で遊べる「おもちゃのひろば」のステージでは、建物のように高く組み上げた積み木を一瞬で崩す「積み木倒し」が1日2回開催されており、館内の見どころのイベントのひとつとなっています。

※「東京おもちゃ美術館」を運営する「認定NPO法人 芸術と遊び創造協会」が認定する資格

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すべて吉野杉で出来た「赤ちゃん木育ひろば」

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全国の様々なおもちゃが展示されている「グッド・トイルーム」

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館内の見どころのイベント「積み木倒し」

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吉野桧の積み木

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木のおもちゃでの遊びを通じて世代を越えたふれあいが生まれる場所

このように木の魅力を存分に感じることができ、多くの人たちの笑顔あふれる『奈良おもちゃ美術館』ですが、どうして、三郷町に設立されることとなったのでしょうか。また、奈良県産材を館内に取り入れた理由などについて、三郷町より『奈良おもちゃ美術館』の指定管理を受けている「社会福祉法人 檸檬会」の前田英隆館長にお話を伺いました。

―三郷町に「奈良おもちゃ美術館」が設立された背景について教えてください。

現在、『奈良おもちゃ美術館』があるこの場所は奈良学園大学のキャンパス跡地で、三郷町では再利用を検討されていました。そうしたなか、私たちの法人の「ここで働き、学び、遊び、暮らす。すべての人が躍動できる社会」をコンセプトとした提案が、三郷町がうたう「全世代・全員活躍型生涯活躍のまち」という理念と合致し、町からの委託を受けて、教育と福祉の総合拠点を設けることになりました。その施設のひとつが、木のぬくもりを大切にした子どもの遊び場である『奈良おもちゃ美術館』です。

保育・教育事業と障がい福祉事業に取り組む私たちの法人の知見やノウハウを活かし、おもちゃ美術館としては初となる、障がいのある方も働けるインクルージョンな「おもちゃ美術館」として運営しています。その一例として当館の「おもちゃのひろば」のステージで行われる「積み木倒し」では、私たちの法人が運営する障がいのある方の就労施設「レイモンドマネジメント」の利用者の方に積み木の組み立てなどのイベント準備を行っていただいています。

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『奈良おもちゃ美術館』前田英隆館長

―『奈良おもちゃ美術館』が全国にある「おもちゃ美術館」と違う点について教えてください。

全国にあるおもちゃ美術館ではその地域の特徴を生かし、地元の自然や特産物を館内の空間に取り入れるなど、それぞれに特色が異なります。『奈良おもちゃ美術館』の場合は地域の独自性を感じることができる二つの空間があります。一つは奈良の特産物や風景を表現した空間です。「ごっこファーム」では、奈良特産の野菜や果物をテーマにしています。また、「おもちゃのもり」には、奈良県産のさまざまな形をした木が立っていますが、それは県内の森林面積が約8割である奈良県の豊かな森林をイメージすると同時に私たちの法人が目指す多種多様な人々との共生も表現しています。このコーナーを訪れた方からは「色々な木の種類があって奈良県産材にもいろいろな木があることがわかった」という声も届いています。

もう一つは奈良の歴史や文化を表現する空間です。「おもちゃの平城京」では、平城京をモチーフに、かつて朱雀大路の界隈にあったいろいろな小屋を模して、遊びのコーナーを作っています。ここでは、けん玉やコマ回しなど伝承遊びを自ら体験できます。また、けん玉が得意なおもちゃ学芸員※が技を披露することもありますよ。おもちゃ学芸員はさまざまな年齢の方からなりますが、おもに第一線を退いてから第二の人生を、次世代の子どもたちや奈良のまちづくりに役立てたいという熱い意思を持った方々が多くおられます。

※来館者へ館内の説明に加え、おもちゃの遊び方や奈良の自然や文化を伝える「おもちゃ」と「遊び」の案内人

―奈良県産材は館内のどの箇所に取り入れられていますか。

奈良県といえば、吉野杉、吉野桧が全国的に有名ですから、おもちゃ美術館を構想したときから館内には必ずそれらの木材を使うべきと考えていました。床や天井、柱には吉野杉・吉野桧を使用し、とくに「赤ちゃん木育ひろば」はすべて吉野杉で出来ています。吉野杉の温かみがあってやわらかい質感が、赤ちゃんにとっても心地がいいんですね。また、「おもちゃのひろば」の積み木も吉野桧で作られています。
そのおかげで、「奈良の木は、木目がとてもきれいなのがわかった」「節目がきれいな木を多く使っているのだろうが、奈良県産材のきれいさが際立っている」など来館者の方からも好評をいただいています。

―館長さんの考える木のおもちゃの魅力とはなんでしょうか。

木という素材の温かみ、手ざわりに癒される感じですね。それに実際、木のおもちゃを手に取って遊んでみると、なかなか奥が深いんです。おもちゃひとつにしても、いろいろな遊び方があって、例えば、けん玉でも玉をのせるだけじゃなく、複数のけん玉で玉の部分だけを積み重ねていくのも面白い。遊びを通じて自分なりに工夫することで子どもたちの創造性を育むことができます。とくに積み木遊びは、いかにバランスよく高く積み上げられるか頭を使うので、子どもだけじゃなく大人もハマります。親子で競争しあって楽しめますよ。

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前田館長自らけん玉の遊び方を披露

この春休みにはおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に来られるお子さんが多かったのですが、伝承遊びのコーナーでは、おじいちゃんが夢中になってけん玉やコマ回しの腕前を披露されていました。こうした世代を超えたふれあいを生むのが木のおもちゃであり、『奈良おもちゃ美術館』の大きな魅力であると感じています。

子どもも大人も楽しめる“木で遊ぶ”美術館へ

『奈良おもちゃ美術館』は木のおもちゃでの遊びを通じて、木を身近に感じられるだけでなく、奈良県の魅力を再発見できる施設です。
今後、館内では、県内の木材関係事業者や木工作家と協力して県産材を使ったワークショップが開催されるそうです。
子どもも大人も世代を超えてふれあえる“木で遊ぶ”美術館へ、ぜひ足を運んでみてください。

INFORMATION

奈良おもちゃ美術館

住所 〒636-0821 奈良県生駒郡三郷町立野北3-12-7
URL https://toymuseum.lemonkai.or.jp/

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