奈良の木とは
大切に受け継がれてきた
「木」のこと、「山」のこと
奈良県は全国有数の優良木材の生産地として知られています。
面積の77%を森林が占めており、恵まれた自然環境を生かして古くから林業が営まれ、
独自の育成方法によって優れた木々が育まれてきました。
ここでは吉野材に代表される奈良の木の特長や吉野林業の歴史などをご紹介します。
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奈良の木の特長
強さと美しさを兼ね備えた、日本屈指の良質な木材
奈良県の代表的な木は、スギとヒノキです。日本各地で生産されている樹種ですが、その中でも吉野地域で生産されるスギ・ヒノキは、「吉野材」と呼ばれる日本を代表する良質な木材であり、奈良県で育まれた木材は全国各地から買い手がつくほど人気があります。その理由はどこにあるのでしょうか。詳しいデータも用いながら、奈良の木の主な特長についてご紹介します。
強く、たわみにくい
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節が少なく、
木目が美しい
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色合いが良く、
意匠が映える
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シロアリにも強いため、
安心
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独自の育成方法
たくさん植えて、何度も間引く。
その手間が、美しい年輪をつくりあげる
年輪とは、一年一年刻まれる木の歴史。奈良の木の特長の一つは、この年輪の幅が細かく、均一であるということです。同心円で緻密な美しい年輪は、木を守り育ててきた人たちの技術と愛情の結晶。何百年という途方もない時間をかけ、彼らが代々受け継いできた育成方法によってつくりあげられたものです。吉野林業に代表されるその独自の育成方法をご紹介します。
密集して、植える
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しかし吉野林業では、1haあたり8,000〜12,000本。密集して植えることで木は太くなりすぎず、
幹の上部と下部で太さがあまり変わらないまっすぐな木が育つのです。
何度も間引き、密度を調整
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この作業を、苗木を植えてから3〜5年周期で繰り返し、密集して植えた木を30年で1haあたり3,000本にします。
その後、70年くらいまでは7〜10年周期で、以降は15〜20年周期で…という具合に、何度も何度も間引きを繰り返していくのです。
このように、密度を調整しながらゆっくり丁寧に育てられた木の年輪は、均一で非常に細かいものになります。
限りない手間をかけて、細かく、
均一な年輪が育まれる
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広大な山林の木々、その一本一本に念入りに仕事をするのは、気の遠くなるような作業です。
このような育成方法が、何百年もの間受け継がれて、奈良の木の品質は守られてきたのです。
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吉野林業の歴史
500年以上、受け継がれてきた情熱と誇り
日本で最も古い植林の歴史をもつ、吉野地方。そこでは吉野杉・吉野桧といった優良木材を育ててきたことが知られています。歴史ある吉野林業はどのようにしてはじまり、今日まで続いてきたのでしょうか。太閤秀吉の城づくりにも使われた「吉野の木」
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足利末期の1500年頃、奈良県の吉野地方で初めて人の手によって木が植えられたという記録があります。豊臣秀吉が当地を領有し、大阪城や伏見城をはじめ畿内の城郭や寺社仏閣に、吉野の木が使われるようになりました。その後、徳川幕府の直領となってからも林業は住民の生業として、吉野の地に深く根付いていきました。最大の木材消費地である大阪に近く、吉野川の水運によって輸送が発達したことが、木材の商品化を進展させました。また、間伐材を収穫・販売する仕組みを生み出し、これが高度な育成林業の出発点となったのです。
「樽丸林業」と称された吉野の山づくり
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吉野の木は「節が少なく、年輪が細かく、まっすぐな材」なので、水が漏れにくく酒樽をつくるための材料(樽丸)に最適でした。この頃から、すでに商品価値の高い優良木材を生産しており、吉野林業は「樽丸林業」ともいわれてきたのです。また、江戸時代、品質が優れた上方の酒はスギの酒樽に詰められ、船によって江戸へと運ばれていました。その間に酒にスギの香りがつくことによって、独特の香りと味になり、江戸の人々に喜ばれました。
吉野の地に造林王、現る
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1840年。吉野郡川上村の山林地主の家に、のちに「造林王」と呼ばれる土倉庄三郎が生まれました。土倉は15歳で家業を継ぎ、林業の発展に力を入れました。たとえば苗木を密集して植えることと丁寧な育成により、優れた木材を生産できるように工夫した「土倉式造林法」という独自の育成方法を体系化し、全国に普及。その技術は各地で成果をあげました。また、木を運び出すために道路や川を整備するなど、日本の林業の発展に多大な貢献をしました。それ以外にも、小学校の開設、同志社大学・日本女子大学などの創立援助や自由民権運動など幅広く活躍しています。1917年に亡くなった後には、その多大な功績を記念して川上村大滝の岩に「土倉翁造林頌徳記念」の文字が刻まれた碑が建立されました。いまでも彼の魂が、吉野の山々をやさしく見守っているようです。
人々の信頼と丁寧な育て方が、山を守り続ける
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吉野の山では、いまも土倉庄三郎が生み出した「土倉式造林法」と、「山守制度」によって林業が営まれています。「山守制度」とは、山を所有する者(山主)と山を管理する者(山守)を分ける管理制度のこと。つまり、この制度では山主に代わり山守が現場で木を育てる役割を果たすのです。一般的な林業では山主が日々手をかけても木が育つまでお金が入りませんが、この山守制度では、山守が山主から世話代をもらい地元の人を雇用して山の手入れを行います。また、木を伐採するときには報酬をもらえるなどのメリットがあり、山守は一生懸命に木を育てます。こういった山主と山守の信頼関係が何世代も引き継がれることによって、山が丁寧につくりあげられ、吉野の木の高い付加価値を生み出しているのです。現代では山主と山守の関係も変わりつつありますが、これからも吉野の山づくりと上質で美しい木材は、継承されていくでしょう。
吉野林業の
現状と課題
近年、全国的に和室の減少や木材価格の下落が続いています。高級建築材として取り扱われてきた吉野材は、一般的な木材以上に大きく価格が落ち込んでいるため、吉野で林業や木材業を営む人々の経営は厳しい状況にあります。また、後継者が不足していることから、作業員や山守の高齢化が進んでいます。500年の歴史をもつ吉野林業ですが、こうした問題を解決するため、吉野材の新たな販路を開拓するとともに収益性を改善するため、多用途に供給できる林業への転換が求められています。
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山から暮らしに届くまで
たくさんの人の手を経て、想いは運ばれる
奈良の木の品質をつくり出すのは、山で木々を育成する生産者だけではありません。大切に育まれた木は山で伐採された後も丁寧に搬出・加工され、その性質に合わせた材料として、人々の暮らしに用いられていきます。ここではそのストーリーを追いかけてみます。奈良の山にはいまでも200年前、300年前に植えられた木々が、どっしりと立ち並んでいます。何世代も前の人たちが植えたこの大きな木を伐るときには、自ずと先人が育てた木と山への深い感謝が伴います。「山守」はチェンソーで切り倒した立派な原木を熟練の技で材質を見極め、最も高値がつく長さにカット。ここでようやく中央部の赤身と周辺部分の白太の美しい切り口が顔を出します。いまでは主にヘリコプターで集材しますが、実はこの方法にはかなりの費用がかかり、ともすれば木が売れる値段より山から木を持ち出す費用のほうが高くついてしまうという現実もあります。
山から搬出された原木は、競り市場に樹種別・直径別・等級別に細かく区別して並べられます。この市場には、品質の高い奈良の木を求め、全国の製材所や材木屋が遠方よりはるばる買い付けに来ます。並べられた木の上に立って市を仕切る「振り子」の口からは競り独特の威勢の良い言葉が発され、「買い方」と呼ばれる製材所や材木屋は、木をいくらで買いたいかを指数字で伝えます。振り子と複数人の買い方との駆け引きの末、原木が競り落とされていきます。また県内の原木市場には、全国各地からも銘木と称される優良な木が集まります。
原木市場から仕入れられた原木は、製材所で製材品へと加工されます。まずは丸太の樹皮を剥き、山から運び出すときについた細かな石を落とします。仕上がりよりも少し大きめにカットし、木の強度を保ち割れや反りなどを防ぐために乾燥させます。3〜20日かけて人工的に乾燥させる方法と、1年半〜2年かけて自然に乾燥させる方法があります。その後、木材の注文に応じて、正確なサイズに加工。お客さまのニーズに応える精密な表面仕上げやフローリングなどの実加工を行い出荷されます。
製材所で加工された製材品は、製品市場で競りにかけられ、材木屋、工務店などへ販売されます。また近年では、家を建てる際に必要な材木を施工現場で使用しやすいよう、事前に工場で加工しておく「プレカット」が多くなっています。機械ができる加工は機械に任せ、職人技でしかできない繊細な加工はベテラン大工が手がけるように区分し、生産効率を上げつつも丁寧な加工が行われるようにしています。プレカットされた製材品は養生材でしっかり梱包し、家1棟分の木材をまとめて建築現場へ配送しています。
奈良の木のリレーの最後を担うのは、お客さまのご要望の住まいを実現するハウスメーカーや工務店。森の中にいるような清々しい気分になれる奈良の木の家をご提案し、心地良い暮らしをつくりだしていきます。木が「住まい」という形になることで、たくさんの人々の想いが結びついていきます。また近年では、山とお客さまを結ぶ取り組みとして、生産者の顔が見える「地産地消の家づくり」が活発になっています。たとえば、施主向けの製材所見学や森林ツアー、伐採をする予定の山で自分の家に使う木を選べる体験など、さまざまな工夫を凝らしています。
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人と生きる奈良の森
森をじっくり見守り、丁寧に育む林業を
いま、私たちの暮らしに森林のもたらす効果を見直す動きが強まっています。森はただそこにあればよいのではなく、木を育てる人の営みと結びついて、十分な機能を発揮します。誰かが植えた木を育み、収穫して利用し、また新しい苗木を植える…。このような健全な森林サイクルをしっかりと守っていくことが、自然を守り、私たちの暮らしを守っていくことにもつながるのです。未来へ続くグリーンサイクル
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いま日本の森が直面している現実
日本の国土は、全面積の約67%が森林。そのうち約40%が、第二次世界大戦後に植えられたスギやヒノキなどの人工林です。しかし「人が植えて育てた森林(=人工林)」は、いま十分に管理されておらず、荒廃が目立つようになりました。理由の一つは、海外からの輸入材が増えたことや住宅様式の変化などにより、日本の木の利用が減ったためです。木を育てても売れないため採算がとれず、手入れが滞り、さらに手入れが必要な森林が増え続ける…という悪循環に陥っているのです。また、山を管理する担い手が減少していることが深刻な問題になっています。
木を使うことで、森は育つ
木を伐採することは悪いことと考えている人が多いようですが、実はそれは大きな誤解です。海外の天然林と異なり、日本の人工林はもっと伐採して使うことが求められています。日本の森林では、毎年、東京ドーム約65個分(約8,000万m³)の木が成長しており、計算上は、輸入材に頼らなくても、国産材だけで日本の木材総使用量をまかなえます。しかし、実際には、年間成長量のうち25%程度しか利用されていません。植えられたスギやヒノキが伐採されずに放置されていると、幹も根も十分に育たず下草も生えにくいため、森林の土壌を守る機能が損なわれてしまい、大雨が降った際には土砂崩れなどの災害が起きる危険が高まります。森林の機能を十分に発揮させるためには、適度に伐採を行い、利用し、新たに苗木を植えるサイクルが必要なのです。
木をまるごと、無駄なく使う
太くてまっすぐな幹にも、細い幹や曲がった幹にも、それぞれの用途があります。たとえば根元部のまっすぐで節のない幹は建築用として、細い幹や曲がった幹は製紙用チップへ…など、木の部位によって適切な用途に活用されるのです。また、間引くために伐った木を「間伐材」といい、この間伐材も貴重な資源として、捨てることなく、有効に活用できるのです。
森はすべての命に結びつく
森が元気になるということは、私たちの命や暮らしが健全に守られているということにつながっています。木が二酸化炭素を吸収することによる地球温暖化の防止、豊かな水源を蓄える働きや、洪水・土砂災害の防止など、森が私たちにもたらす恩恵はさまざまです。また、輸入材を国産材に置き換えていく消費行動は、日本の森林を守ることに結びつくのです。グリーンサイクル
