2023.09.22(更新日)
明治神宮第一鳥居 創建100年を経て初めての建て替え その道のりと込められた思い。吉野杉が使われた理由とは。
明治神宮の南参道の入口となるのが、原宿駅の近くに立つ第一鳥居。この第一鳥居は明治神宮鎮座百年祭の記念事業として約100年ぶりに建て替えられ、2022年7月4日、竣功清祓式(しゅんこうきよばらいしき)とくぐり初め式が行われました。
この新しい鳥居の柱に使われたのが、奈良県吉野郡川上村産の吉野杉です。高さ10.1メートル、笠木(一番上の横位置の木)の長さ15.6メートルという大きさを誇る鳥居を造るため、吉野杉をはじめ全国から材料となる木を探し出し、さまざまな人の力を結集して新しい鳥居が完成しました。
今回は、新しい第一鳥居ができるまでのお話を、建て替えに関わったさまざまな関係者に伺いました。
2年の歳月をかけて選ばれた杉材、柱に使われた吉野杉との出会い
写真提供:明治神宮
明治神宮が創建されたのは大正9(1920)年のこと。創建当時、明治神宮の鳥居の全ては台湾檜で建てられ、その後も建て替えや修復には、台湾檜や国産の檜が使われてきました。しかし、現在台湾檜は伐採が禁止され、国産檜でも旧鳥居を踏襲する材を探し出すことが非常に困難ということがわかり、2年の歳月をかけて用材をどのようにするかが検討されました。そこで今回なぜ杉が使われることになったのか? 明治神宮へお話を伺いました。
「檜材を含め、外国産材や、集成材、木とスチールを組み合わせたハイブリット材など、さまざまな候補があるなかで、「素木(しらき)で国産のもの」という意向を決めたところ、「国産」で調達可能な木材では杉が最も適切であろうということになりました。
第一鳥居の2本の柱は吉野杉を、笠木や島木には産地の違う杉材を用いて、境内で初の杉の鳥居となりました。なによりも、木(もく)は自然への畏敬の念を呼び起こすとともに、人工物にはないあたたかみと美しさがあります。吉野杉の柱の木目は、吉野の地と天の恵みで育まれた生命の力強さを感じさせてくれます。杉の香りも芳しく、美しく仕上がり、完成された第一鳥居の姿を見て、ただ“ありがたい”という思いが湧き上がりました」
初代の鳥居の大きさや形を引き継ぐには、長さが15m、胸高の周径が5mある木材が必要となり、国内でこの大きさの木材を探すことは大変厳しい状況だったそう。柱用の立木を探し出すところからスタートし、全国のさまざまな森林で現地調査が行われました。
木材の選定から関わった吉野銘木製造販売株式会社の貝本会長・社長は、「なかなか条件にあった木が見つからず、見つかったとしても出材するのが困難な場所という問題がありました」と言います。
「そんなとき、当社の社有林で川上村高原(たかはら)に太い木が残っているのを思い出しました。確認したところ、周径は約4.9mで、ちょうど探していたサイズに近いもの。もう1本も同じ高原で運良く見つけることができました。15mの長さで、木の先端の方までできる限り節のない材となると、探し出すのは容易ではありませんでしたので、運が良かったとしか言いようがなく、神に選ばれた木ということを感じました」
鳥居の東側には樹齢約280年、西側には約260年の吉野杉が柱として用いられ、東西共に吉野杉で揃えられることになりました。
神聖な空気の中での伐採と緊張の出材・製材
川上村で候補の木が見つかった4ヶ月後の2014年12月、木材を最初に伐り出す「御杣始祭(みそまはじめさい)」が執り行われました。御杣始祭とは、神社に用いられる木を伐採するときに行われる特別な祭事。祭典の設営をしていると雪が降り始め、あたりの山を白く染め、儀式が神聖な空気に包まれたと言います。
写真提供:NARU建築写真事務所
伐採前に倒す方向を決め、倒れた木が傷つかないように、当たる可能性のある木を事前に7、8本伐採。さらに、石や切り株で傷がつかないよう枝木をクッションのように敷き詰め、倒れる方向がずれないようにチェーンソーで角度を何度も調整しながらようやく木を伐倒することに成功。伐られた木の傷や節(ふし)の状況を確認した後、「葉枯らし*」を12ヶ月かけて行いました。
*葉枯らし ・・・ 木の中に大量に蓄えられた水分を抜き、また、色味を良くするため、伐採後、枝葉を残したままその場で乾燥させる方法。
写真提供:清水建設(株)
葉枯らしをした後、道をつけて木を下す出材作業が行われました。これまで何度も大径材の出材をしている今回の伐採・出材作業を吉野銘木製造販売(株)より請け負った上平林業の上平さんでも、これだけの大きな木を運搬するのはとても怖い作業だったと振り返ります。
「川を挟んで50m程の山上に木があり、川を越えて木を運び出さなければなりませんでした。地元の山関係の方に相談し、運び出すのに土建業者さんにも協力していただき道をつくり、大径木を得意とする方に伐採・出材していただきました。こういう作業は、天の力がないとできない。無事に損傷なく運び出すことができて、安心しました」
写真提供:株式会社モトタテ
吉野の山から様々な思いを込めて運び出された木は、山形県の製材工場を持つ、宮大工の加工場(株式会社モトタテ)に移されました。そこで木造(こづくり)始めの儀式である「釿始祭(ちょうなはじめさい)」が行われ、製材がスタート。通常の建築材だと複数の材料から選び使うことが可能なところ、他に代わりがないこの木をどのように最大限に活かすか。設計にあたった建築家の木内修さんや、施工を担当した清水建設株式会社、そして製材所の職人・宮大工が木と向き合い、相談を重ねながら削り出す作業が行われていきました。
「杉材は加工しやすい反面、傷がつき易いため、毛布にくるむなど木を養生する方法について細心の注意を払って作業しました。木は生物であり、かつ一発勝負の作業であるため、材の表情に注意しながら、仕上げ面はミリ単位の加工を施しました。吉野杉には迫力と存在感があり、木目が美しい。出来上がったときには、素晴らしい鳥居ができたと感じました。吉野材は、長い年月、世代を越えて大切に木を育まれてきたことが素晴らしいと思います。大径木は数が失われつつあり、手配が難しいなか、山林の維持・管理がなされていたことに感心します」(清水建設 米川工事主任)
製材前に行われた釿始祭の様子 写真提供:清水建設(株)
自然のものを扱うからこそ、難しく、繊細で、美しい。そして、特別な存在。多くの人の想いが合わさり、形づくられ、鳥居の柱となる材に仕上がりました。
2023.09.22(更新日)
明治神宮第一鳥居 創建100年を経て初めての建て替え その道のりと込められた思い。吉野杉が使われた理由とは。
伝統を守りながら、現代の技術を用いて、新たな価値を創造する
「100年ぶりの建て替えとなり、設計や加工で苦労したことは、形の良さの追求でした」と話すのは、設計を担当した建築家の木内修さんです。
「形、大きさは創建時を踏襲することとなり、100年前、神社が創建された時の鳥居全体の美しさを忠実に再現するために設計を進めました。明治神宮第一鳥居の品格の良さはどこから来るのか。創建時の設計図は残っていなかったため、実測値を参照しながら、数値化を行い、寸法を決定していきました。柱の上に横たわる笠木、島木の反り、柱を美しくするエンタシスの曲線については、コンピュータによるシミュレーションを繰り返し、初代の鳥居の実測図とほぼ同じ形を描き出すことができました。形は“伝統”でもその作り方は現代の技術であり、“現代技術による伝統の創作”と言えます」
こうして、100年前の大きさ・形を引き継ぎ、現代の技術、人々の力で製材・加工・仕上げされ、建て替えられた明治神宮第一鳥居。最後に、かつての鳥居に使われていた菊の紋章の金具が修復され、取り付けられました。
笠木、島木、柱といった鳥居一つ一つの部位が職人による手作業で加工された
表参道を通り、明治神宮へ運ばれる鳥居の部材 写真提供:川澄・小林研二写真事務所
運搬後、それぞれの部位を組み立てる作業が行われた 写真提供:川澄・小林研二写真事務所
菊の紋章は、先代の鳥居で使用していたものを修復し、新しい鳥居に取り付けられた 写真提供:清水建設(株)
明治神宮は、建て替えを実現させたことについてこのように話します。
「年月とともに、形あるものは腐朽や損壊を免れませんが、先人の思いと技がこもった物は、修復可能であれば手をかけつつ継いでいきたいと考えております。と同時に、現代では復元できない職人の技や材もあるかと思いますので、専門家の意見を聞きつつ、明治の御代と同様に温故知新の姿勢を忘れずにいたいと考えております。
今回の第一鳥居の建て替えも、姿形は旧第一鳥居と同じですが、新たに吉野杉をはじめ杉材をいただき、最新の技術が駆使されたと聞いております。
明治神宮が創建された当時に勝るとも劣らない、現代の人々の深い思いや知恵が、こうして新たな鳥居となったのだろうと思います」
伝統を未来へつなぐ人々の思いが結集し、自然の美しさと現代の技術によって新しく生まれ変わった第一鳥居。この鳥居を目の前にして見上げてみると、そのままの木の大きさ、木目の美しさ、柔らかさは、木が何百年と山に立っていた頃の自然の風景を感じさせてくれるような気がします。ここから先、50年100年と人々を迎え入れる明治神宮の森の入口。そこに立つ吉野杉の姿を見た時に、自然と人とのつながり、長い年月を経てこの鳥居をつくり上げた人々の熱い思いを感じてみてください。
2023.09.22(更新日)
明治神宮第一鳥居 創建100年を経て初めての建て替え その道のりと込められた思い。吉野杉が使われた理由とは。
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