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2024.03.27(更新日)
設計と大工の二刀流!家づくりのプロが語る奈良の木の魅力
入口には、「大工小屋から届ける木の家」という垂れ幕。
この作業場の主である「榊本工務店」榊本憲一さん(※榊は木へんに神)は、一流の技術を持った一級建築大工技能士であるだけでなく、一級建築士でもあり、家の設計から施工までを自ら手がけています。
墨壺を手に木材の寸法を手際よく取り、鉋をかける榊本さんの動作は、まさに熟練の職人技。そうした技術を活かしつつ、施主さんの希望に応じた設計を行い、数多くの理想の家づくりを実現してきました。作業場の屋根裏部分には、棟上げの際に用いられたたくさんの御幣(ごへい)が大切に保管されており、人々の生活に寄り添う住まいをつくってきたことが伺えます。
そんな榊本さんはこれまで奈良の木を随所に取り入れた家づくりを行ってきました。
住まいに用いられる奈良の木にはどのような特徴があるのでしょうか。設計から施工まで一貫して携わる家づくりのプロ中のプロにとって、奈良の木はどのような存在なのか、今回は建築材としての奈良の木の魅力に迫ります。
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「榊本工務店」榊本憲一さん
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作業場の屋根裏に並べられた御幣
これまでどのような施工で奈良の木を使用されてきましたか。
「榊本工務店」は大工修行をしていた父が独立し、昭和40年、この地(葛城市)に創業しました。父の代から私の代になっても一貫して県産材を使っています。現在は、新築やリフォームなどを手がける工務店として1年に2軒ほど、大工としては多くの現場で県産材に触れています。
主に使う県産材は吉野桧と吉野杉。耐久性や防蟻性の高い吉野桧は、土台や柱をはじめ、間柱(柱と柱の間にある小柱)に向いています。吉野杉は、主に梁に使われ、木の特質に合わせて使い分けます。ただし例外もあり、屋根の下地である「垂木(たるき)」には一般的には杉がよく使われるのですが、わたしの経験から判断して強度があり、たわみにくく丈夫な吉野桧を使用するなど、独自の使い方をする場合もあります。
以前、大阪にある設計事務所が開催していた、国産材を使った地震などに強い家づくりの勉強会に6年間ほど通っていました。勉強会では講師の方が、梁にも杉を使いましょうと話しており、杉は柔らかいのに本当に大丈夫かなと思いました。実は、それまでは梁には米松を使っていたんです。実際に勉強会で家を見に行かせてもらうと本当にすべての部材に杉が使われていました。梁の長さも3メートルほどで自分のなかでイメージしているサイズよりも小さいものでした。勉強会には構造設計の専門家、大工など全国から有名な講師が来ており、私が今まで親とやってきた常識とは全然違う常識がありました。勉強会を通して県産材を使うことに意義を感じ、それからは土台・柱・梁などの構造材には、ほぼ100%吉野材を使用しています。また、木目が綺麗で仕上がりも美しいので、化粧材として使うこともあります。
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榊本さんが手掛けた家
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親子二代にわたって奈良の木を使用している理由を教えてください。
県内で育てられた吉野杉や吉野桧は、手に入りやすく、供給も安定しており、品質の面でも優れています。
基本的には、施主様のご意向で使う材を決めていきますが、「奈良に住むのなら、奈良の木を使った家を」という想いをお持ちの方もおり、予算が合えば、吉野材を提案いたします。香りや肌触りの良い吉野杉の床板は特に人気です。
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木目の美しい柾目の化粧枠
吉野材を使用することでコストが高くなると心配される施主様もいらっしゃるのですが、その場合は奈良県が行っている「奈良の木を使用した住宅助成事業」制度※のご紹介をしています。これは奈良県地域認証材や奈良県産材を使用し、住宅の新築・増築・改築・リフォームなどを行う際に助成金を受けられる制度です。構造材にも内装材にも利用可能なので、このような制度を活用し、施主様のご負担を軽減しながら、できるだけ地元の木材を使えるようにし、「吉野材で家を建てたい」「吉野杉で床の張替えリフォームをしたい」といったご要望にお応えさせていただいております。
※令和5年度受付分はすでに終了
2024.03.27(更新日)
設計と大工の二刀流!家づくりのプロが語る奈良の木の魅力
建築材として、奈良の木の木材には他の木材と比較してどのような特長がありますか?
普段、海外産の木材も扱っていますが、たしかにアメリカやカナダが原産の米松は、良い建材なのですが、やはりそれと比べてみても、吉野材の方がより優れた特徴を持っているなと思うのです。
吉野杉や吉野桧は密な状態で植林され、枝打ちや間伐などの管理をしっかりしています。真っすぐ成長するように手間暇かけて丁寧に育てられているので、歪みが少なく質がとても良いです。年輪幅が狭く均一で目が詰まっているため強度も高く、木目が綺麗で色合いも上品なので美しい仕上がりになります。鉋を引いてみるとよくわかるのですが、油分が多いため美しいツヤが出ます。何十年と年数が経っても、堅く絞った布で拭くと、再びツヤが出てくるほどです。
木そのものの品質だけでなく、県内の製材所の技術の高さにも魅力を感じています。吉野町にある阪口製材所さんでは、天然乾燥させた上質な吉野材が豊富にストックされています。ふつうの製材所では手に入らない大きめのサイズのものなど、ほしいサイズの建材をすぐに手に入れやすいのがありがたいですね。
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作業場にストックされている吉野材
奈良の木の木材を住宅建築デザインに組み合わせる際、どのようなところにこだわっていますか。
たとえば、床と接する壁の一番下の部分に取り付ける「巾木(はばぎ)」という部材は、一般的に「板目(いため)」取りをします。ですが、あえて「柾目(まさめ)」取りをして巾木を作ってみました。「柾目」は「板目」よりも反りにくく、裏表関係なく使えます。またまっすぐな木目が美しいのも魅力です。
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板目の木目
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柾目の木目
日常的に住む人の目に入る部分は特に、奈良の木の色合いや仕上げた時の美しさなど、細かなところまでこだわりたいと思っています。ほかにも、吹き抜けの場合は美しい梁が見えるように工夫をしています。複数の吉野杉を組み合わせて一本の梁にしたり、ポイントとして吉野材を使うなど工夫しています。
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屋根の勾配を使った登り梁で美しく、開放的な空間に
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柾目の巾木
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壁面ではなく柱に作ったスイッチは榊本さんの技術ならでは
2024.03.27(更新日)
設計と大工の二刀流!家づくりのプロが語る奈良の木の魅力
実際に奈良の木を使用した住宅に住まわれている方からはどんな声や反応がありますか。
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やはり「香りがすごい!」と言われる方が多いです。住むうちに香りに慣れてしまうと、その状態が当たり前になってしまいますが、お家に遊びに来られたお客様に「木の香りがする」と言われると、再認識されるというお話を伺ったこともあります。
また、元々、普通の合板であった床板を、吉野杉を使用してリフォームされた方からは「空気が綺麗になった気がしてリラックスできるようになった」「この床の上で寝ると以前よりよく眠れる」といったお声も聞かれました。木には調湿効果などのメリットもあるので、居心地の良い空気感に包まれるのかもしれませんね。
施主様に工務店の作業場に来ていただき、鉋を使ってご自身で木を削っていただくことがあります。その木を施主様の家の中のいつも見える場所に使うことで、施主様がご覧になるたび自分で作業したことを思い出してくださり、特別な思い入れのある家になるのではないかと思っています。
また、施主様には「木には遠慮せず住んでください」と申し上げています。少々の傷は味になっていきますし、傷をつけないように気にしながら生活していては安らげませんから。傷が気になる場合は、削って修繕できますので、アフターフォローに関してもどんなこともご相談していただきたいですね。
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今後、「こんな風に奈良の木を使ってみたい」と考えられていることはありますか。
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これまでも自分のアイデアや技術を生かした施工をさせていただいてきました。たとえば、屋根の内側にある小屋組みの一部で、一番高い「棟木(むなぎ)」から「軒桁(のきけた)」にかけて斜めに取り付ける「垂木(たるき)」という部材があるのですが、その見え方を自分の思うようにさせていただいたことがあります。また、建具枠も反りにくい「柾目」の板を独自のアイデアで組み合わせた細工で、より質の高い建具枠に仕上げたこともあります。また、磨き丸太をジョイントして丸柱を壁にしたいという依頼があったときには、50本もの丸太を手作業で加工し、納品いたしました。
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見え方を工夫した垂木
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柾目板を組み合わせて作った建具枠
普段から車で走りながら見かける家で良いと思ったものなど、頭の中にアイデアを記憶しており、それをいつか具現化させていければいいなと思っています。施主様のどんな要望にも応えるために、住む人のことを想い、建築士としての知識とアイデアと大工としての経験や技術、どちらも活かしながら家づくりにこだわっていきたいです。
手間暇かけて育てられ、確かな技術で製材された品質の高い奈良の木。住む人のことを想う榊本さんの豊かなアイデアと熟練の手技によって、その特質や美しさが十二分に活かされ、これからも理想の木の家が生まれていくことでしょう。そして長きにわたり家族を守り、家族の歴史とともに、木の味わいも深まっていくことでしょう。
INFORMATION
榊本工務店
住所 | 〒639-2164 葛城市長尾74−1 |
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TEL | 0745−48−4309 |
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