“木のまち”吉野から発信する、新しい“木の魅力”。「2024よしのウッドフェス」現地取材レポート!
“木のまち”吉野で、今年開催3回目を迎えた「よしのウッドフェス」
桜の名所・吉野山で知られる奈良県吉野町は、実は“木のまち”でもあります。吉野町内をゆったりと流れるのは吉野川。川の上流の山々から伐り出された吉野杉・吉野桧の丸太は、かつて吉野川を通って筏流しで下流へと運ばれ、この吉野のまちに集められ、製材されていました。そんな吉野町ですが、近年、人口減少や花見シーズン以外の観光客の少なさが課題となっています。また、まちの主要産業である木材産業についても、全国的な木材需要(特に高級材需要)の減少により、まちはかつての賑わいを失いつつあります。
「よしのウッドフェス」は、「”木のまち”吉野の活気を取り戻そう!」「木を通じて吉野を盛り上げよう!」という想いを持った有志が集まり、生まれたイベントです。まずは暮らしのなかで減ってきた人と木の接点を作り、都会に住む来場者に木の魅力を体感してもらうことがこのイベントの大きな目的。なぜなら都会に暮らしていると、圧倒的に木と触れる機会が少ないからです。木と関わるきっかけを増やすことが、暮らしを支える山のことを考えるきっかけに繋がる。「よしのウッドフェス」では、さまざまな切り口で木の魅力を伝えています。
2019年3月に開催された第1回目の来場者は1000人以上、コロナ禍が明けた2023年10月に開催された第2回目は1500人以上、と回を重ねるごとに多くの人が参加し、木工体験や吉野杉・吉野桧の木工展、貯木まちあるき、吉野の木と歴史を学べるツアー、吉野マルシェなど、多彩なプログラムが行われてきました。
そして今回が第3回目の開催。緑の山々、広い空に包まれて、丸太の椅子が置かれたのびやかな会場に集う人たちは終始リラックスムード。いろいろな視点から繰り出される木の魅力が満載のコンテンツに、大人も子どもも目を輝かせて体験していたのが印象的でした。
目指すのは、木について「自分ごととして考える社会づくり」。「吉野と暮らす会」吉川晃日さんにインタビュー
「よしのウッドフェス」を企画・運営する一般社団法人「吉野と暮らす会」の吉川晃日(よしかわこうひ)さんにお話を伺いました。吉川さんは元々大阪出身で、大学生の時に「吉野と暮らす会」が運営する「吉野杉の家」のプロジェクトに参加したことをきっかけに吉野町での活動をスタート。現在は林業や自然からかけ離れ場所で過ごしていた「木の素人」という立場を活かして、一般の人々にもわかりやすく、木の魅力や吉野のまちの魅力を発信されています。吉川さんが「よしのウッドフェス」の企画・運営に関わりはじめたのは2023年開催の第2回から。吉川さん以外にも「吉野と暮らす会」には、吉野山の旅館で働く方、川上村の地域おこし協力隊、大阪で活動するデザイナーなど、会の活動や想いに共感した、さまざまなフィールドで活躍する若者もメンバーとして参加しています。
「吉野と暮らす会」吉川晃日さん
――「よしのウッドフェス」を主催する理由を教えてください
私の出身は大阪ですが、吉野町で活動を始めたときに、都会での生活においては、木の魅力に触れ、山の恩恵を実感する体験が圧倒的に少ないことに気づきました。都会で暮らしていたときは獣害や土砂災害などといったニュースを聞いても、大変だな、という思いはありつつも、どこか他人事のように思っていました。
例えば、農業や漁業については日常生活のなかで米や魚を食べて「おいしい」という体験が多いからこそ、今年の米不足のようなことが起きたときにも自分事として危機感を持てるのです。一方で、「木は大事」「森は大事」ということを実感として持っている人はまだまだ少ないのが現状。現代社会において木と関わるきっかけを増やし、自分事として考える社会づくりが必要だという考えから「よしのウッドフェス」を開催しています。
――来場した方にはどんなことを学び、触れてほしいですか?
学ぶというよりは、まずは「楽しい」と感じてもらいたいですね。マルシェでおいしいものを食べ、木工体験で楽しく遊び、まち歩きを通して歴史を感じ、でも気付けば少し木が身近に、「木っていいよね」と感じられるようになっている。そんなイベントを目指しています。
マルシェでは「これも木!?」というおもしろい使い方をしていて、木の可能性を見出せるようなものを揃えています。例えば「和菓子工房雀堂」の「木の粉団子」には、食用の木のパウダーがかかっていて、ダイレクトに木の風味が楽しめるお団子です。
「和菓子工房雀堂」の「木の粉団子」
また「縁樹の糸」のストールや服などのファッションアイテムの素材は日本国内の木を原料にした新しい再生繊維です。樹木由来の自然な風合いで、美しい森林を守るために切り出された間伐材や倒木を活用してつくられています。
「縁樹の糸」のブース
桧パウダーと桧の葉に米ぬかを混ぜたものを発酵させたときに発生する自然の発酵熱を利用した温浴(足浴)が体験できる「発酵温浴nifu」もおすすめです。桧のよい香りとともに身体の深部からしっかりと温めてくれます。インパクトのある木の使い方に触れて、木の魅力を体験していただけると思います。
「発酵温浴nifu」の足浴
――今年で開催3回目とのことですが、今回新しく取り組んだことはありますか?
昨年(第2回) の1日開催から2日開催へとパワーアップさせました。1日目は学び、2日目は遊びをテーマとしたコンテンツを用意しています。1日目に行われる「貯木まちあるき」では、吉野貯木場で働く木材のプロと貯木場や製材所を巡りながら、吉野貯木場の歴史や木材産業の技術や知恵を学べます。また、小さい板から大きな一枚板まで様々な木材を参加者が競り落とす「木の競り体験」、吉野町の製材所や家具工房、吉野の木を使用したモデルハウスなどを見学できる「工場見学」などの学べるコンテンツを用意しました。
2日目はいろいろな大きさの木の年輪を当てる「年輪当て大会」や一本歯下駄を思いっきり飛ばす「一本下駄飛ばし」、酒や醤油を仕込む樽や桶に使われるタガ(竹の輪)をフラフープのように回して回数を競う「タガフープ選手権」など、大人も子どももいっしょに盛り上がれる楽しいイベントが目白押しです。
――「吉野地域」の林業や木材産業について感じている課題やこれから取り組んでいきたいことを教えてください
吉野地域は造林発祥の地と言われており、500年の林業の歴史をもつ地で、他にはない魅力や誇るべきものがある場所です。誇りをもって伝えていくべきですが、これまでは一般の人になかなかうまく伝わっていなかったように思います。だからこそ、吉野地域の林業や木材関係者の方々のお話や思いを、一般の人にわかりやすく伝えていくのが、私たちの役割ではないかと考えています。私たちは木に関しては素人ですが、学ぶことに関しては意欲的です。こういったイベントを通じて、皆さんにわかりやすく木の魅力を伝えられたらと思っています。
“木のまち”吉野から発信する、新しい“木の魅力”。「2024よしのウッドフェス」現地取材レポート!
食から木の競り体験まで五感で木の魅力に触れた2日間。
「奈良の木のこと」取材チームは、10月12日(土)、初日の「よしのウッドフェス」に参加してきました。メイン会場は吉野貯木場。広々とした芝生の広場に飲食ブースや木工品販売、木工体験ブースが並んでいました。
まず参加したのは、「貯木まちあるき」。木材のプロと一緒に約90分間、吉野貯木場内歩くというイベントです。
貯木場とは、材木を一時的に保管し、売買する場所のことをいいます。現在の吉野貯木場と呼ばれる地域には、40軒近くの木材関係施設が集まっており、まち全体がひとつの大きな製材所のような様相を呈しています。その様子を見学できるとあって多くの人が参加していました。
貯木まちあるきの折り返し地点である「吉野中央木材株式会社」では、今回特別に樹齢80年の吉野杉を帯ノコで切り出していく迫力満点のシーンを見せてもらいました。木の個性を生かし、一本一本を大切に使い切る丁寧な仕事がここにはあります。
吉野貯木場をくまなく歩き、メイン会場に戻ってくると、ちょうどお昼どきで飲食店ブースやキッチンカーからはなんともいい匂いが漂ってきます。『よしのウッドフェス』のイベントを企画・運営する吉川さんがおすすめしてくれた「和菓子工房 雀堂」の「木の粉団子」に挑戦。木の香りとほろ苦さが口の中に広がるはじめての味に出合えて、その場に居合わせた人との会話が弾みました。
ほかにも「工房やぶせ」の手練りで作られた吉野本葛入りの手作りこんにゃくや「nilinto」の吉野杉の炭で焼いたアマゴの塩焼き、「うなぎ屋太鼓判」のふんわりとしたうなぎ丼など、グルメなブースが19店舗も集まり、何を食べるか迷うほどでした。
また、印象的だったのは木工体験が出来るワークショップブースが多いこと。まな板やスプーン、楽器などを作れるブースが用意されていて、親子で参加されている方も多かったです。会場にはたくさんの人が訪れているのですが、ちっとも混雑した感じがしないのは吉野ののびやかな自然のおかげ。ものづくりに没頭したり、木工作品を買い求めたり、訪れた皆さんは思い思いの時間を過ごしていました。
今回、「奈良の木のこと」取材チームは、「工場見学」にも参加。吉野川流域産の吉野桧専門の製材所「坂本林業」を見学し、坂本好孝さんに吉野林業のことや吉野材の特徴、木の目利きなどについて詳しく教えていただきました。また、実際に木材の鉋掛けを実演していただきました。鉋を掛けられたばかりの吉野桧の美しかったこと。製材所内に漂う木の香り、倉庫に積まれた木材のすべすべに輝いた豊かな表情。こんな木を守り育ててくれた先人への感謝の気持ちが湧いてきます。そしてここ吉野町で木材産業に携わる人々が今も木材の文化を守り繋いでくれていることに尊敬の念を覚えました。
そして最後に取材チームが見学したのは「木の競り体験」。競りを進行するのは、普段は吉野町にある原木市場で働いている本物の「振り子(市を仕切り進める役割の人)」さん。少し早口の、独特のリズムで発される言い回しでテンポよく競りが進んでいきます。ハイライトは樹齢200年の吉野桧の一枚板。次々と手が挙がり、会場は大いに盛り上がりました。
取材は1日目のみでしたが、2日目には「年輪当て大会」や「一本下駄飛ばし大会」、「タガフープ選手権」が行われ、メイン会場は大賑わいだったそうです。
まちなかで暮らしていると、木に触れ、そのぬくもりや魅力を実感する機会はなかなかありませんよね。今回、「よしのウッドフェス」に参加し、製材所のプロに教わる木の目利きや迫力のある製材現場、木の新しい可能性を感じる食やプロダクトとの出会いなどこれまで体験したことがないようなさまざまなコンテンツを通じて木をぐっと身近に感じることができました。「よしのウッドフェス」に参加すれば、あなたと木との関係もきっと変わるはず。 “木のまち”吉野町を訪れて木の魅力に触れてみませんか。
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