木と共に、きっと出会える!!奈良県下市町に廃校をリノベーションした複合型商業施設「KITO forest market shimoichi」がオープン
そんな豊かな自然に囲まれた田舎の町に、2024年7月5日、複合型商業施設「KITO forest market shimoichi(以下、KITO)」がオープンしました。施設を運営するのは、雑貨店『3COINS』やアパレルブランド『mystic』、『CIAOPANIC TYPY』などアパレルと雑貨の企画製造小売を手掛ける、株式会社パルグループホールディングス(以下、パルグループ)。廃校になった小学校がリノベーションされ、「木と共に、きっと出会える場」として生まれ変わった町の新拠点となるKITOの全貌をご紹介します。
木材・薬草・果実を軸にプロデュース!大人も子どもも楽しめる複合型商業施設
「KITO」は、小学校としての役割を終えた旧下市南小学校を利活用しており、校庭や体育館、時計など小学校の面影が残るどこか懐かしさを感じる施設です。1階には地元食材を使ったメニューが味わえるレストランやカフェ、下市町をはじめとする奈良の豊かな自然と特産品を活かしたお土産やKITOオリジナルグッズを販売するショップがあります。2階は下市町を含む吉野地域を拠点に活動している作家・アーティストのギャラリーや体験ルーム、3階はレンタルオフィスやイベントスペース、4階には町内外の方が交流できる大きな交流室があり、下市町の魅力をたっぷり堪能できます。そして、元体育館だった建物には割り箸の端材でつくられた迷路や登れる本棚などキッズスペースもあり、子どもも一日中楽しめる場所となっています。川と森が目の前に見える、木のテーブルや素敵なテラス席もあるので、ゆったりとした時間が過ごせます。
今回、パルグループが、下市町に複合型商業施設をオープンするにあたり、まず下市町について「知る」ところから始めたそうです。2022年に社内で「下市プロジェクト」を立ち上げ、下市プロジェクトメンバー1名を下市町に常駐。下市町に常駐をしていた担当者はもちろん、社内の他のメンバーの皆さんも、まず下市町のことを知ることから始め、タウンミーティングで町の人と触れ合ったり、視察で町内の木材産業や農業などを見たり聞いたり、時には食べてみたりと、まさに五感を使って楽しみながら下市町の魅力を学んだそうです。
そうして、下市町のことを学んでいく中で、絞られたKITOのコンセプトとなるキーワードが「木材・薬草・果実」です。
➀「木材」
吉野地域に位置する下市町は、古くから豊富な森林資源を活かして、木工品づくりが盛んに行われてきました。特に割り箸は下市町が発祥の地と言われており、また、神具の三宝は国内シェアの9割を占めています。
➁「薬草」
江戸時代からこの地で薬草栽培が盛んに行われていたことや、現在も薬の原料となる薬草の卸業者が町内に存在します。
➂「果実」
林業が盛んな吉野地域にありながら、果樹栽培が盛んで、柿をはじめサクランボ、ブドウ、桃、イチゴなど、季節ごとに様々なフルーツが採れます。
コンセプトキーワードの中でも、特に「木材」に関しては、吉野杉を中心に施設に数多く使用されています。入り口にある施設名のハンギングサインなどはすべて木で、農産物や特産品などを販売する「MARCHE」のレジカウンターや棚、割り箸のオブジェ、カフェ「KITO STAND」のメニュー表やカウンターなども木です。また「WOOD FIRE DINING」の大きな吉野杉のテーブルには、全長4メートル以上もの一枚板が使われていて圧巻です。
「WOOD FIRE DINNING」の吉野杉のテーブル
「MARCHE」の割り箸オブジェ
また、2階のギャラリーでは、下市町を中心に吉野地域で活動する職人や作家の作品が展示されており、吉野杉皮を使った家具や吉野杉の面皮を使ったオブジェ、三宝づくりに用いられる挽き曲げの技術を活かした吉野桧の雑貨など、職人や作家たちが吉野杉や吉野桧に惚れ込んでいるからこそ生まれる作品ばかりです。
さらに、キッズスペース「WOOD PARK」にも、割り箸の端材を使った迷路、登れる本棚など多くの木が使われています。
吉野杉皮を使った家具
吉野杉の面皮を使ったオブジェ
今回、施設の設計・デザインを担当したDRAWERSによると「設計するにあたり、下市町内の事業者を見て回りました。木材を乾燥させているところすら自分にとっては驚きでした。特に材木倉庫に圧倒されたので、1階にその雰囲気を作りました。その他にも、柿の葉寿司の箱はマルシェの什器として、薬草は額に入れてレストランのアートにしたり、下市町の地場産業をできるだけインテリアに反映させながら、新しいクリエイションにつなげていくことを大切に思いながら設計しました。」とのこと。割り箸を連ねたオブジェ、銘木屋の倉庫をイメージさせる座席、黒板をつかった下市マップなど、旧小学校の面影と木工の町、下市町を感じられる内装や設えは、まさにパルグループが目指す「この場所にしかないものをつくりたい」という思いがカタチになっています。
木と共に、きっと出会える!!奈良県下市町に廃校をリノベーションした複合型商業施設「KITO forest market shimoichi」がオープン
まずはレストラン&カフェやショップを目当てに訪れるのもおすすめ
1階にあるレストラン&カフェ「WOOD FIRE DINING」は、その名のとおり間伐材の薪を使って焼き上げるピザをメインに、旬の地元産の野菜を使った薬膳カレーや、旬の下市町産のフルーツを使用したパフェなどが味わえます。
館内には、なんとクラフトビールの醸造所もあります(2024年12月から正式に稼働予定)。なぜクラフトビールかというと、下市町の特色や特産品をうまく活かした、多様でオリジナリティー溢れる商品を生み出せると考えたから、とのこと。そのために、パルグループの担当者は宇陀市にある奥大和ビールの醸造所に通い、何度も試作を重ねたそう。そして完成したのが、下市町産の果実や特産品をたっぷり使ったKITOオリジナルのクラフトビールです。果実の豊かな香りと上品でバランスの取れた味わい深いビールは、KITOの自信作だそうです。現在は醸造技術のノウハウも習得し、自社醸造に向け、準備を進めているとのこと。
マルシェやショップには、近隣農家さんから届く新鮮な野菜や、地元のお菓子やお酒、吉野杉や吉野桧を使った木工品などが販売されています。また、KITOオリジナルのグッズや食べ物も豊富なラインナップで取りそろえられています。中でも店長のおすすめは、オリジナルの濃厚たまごプリンだそうです。
奈良の新たな観光スポット「KITO」は、子ども連れで来ても、デートでも友人同士でも、見て食べて買って遊んで楽しむことができそうですね。
知っておきたい「KITO」誕生の経緯。下市町とパルグループ、それぞれの思いとは?
なぜ「KITO」をオープンすることになったのか。下市町賑わい創出協議会の事務局長・松原正城さんとパルグループ下市プロジェクトマネージャー・井上真央さんにそれぞれお話を伺いました。
下市町賑わい創出協議会の事務局長・松原正城さん
「下市町には、たくさんの魅力や良さがありますが、知っていただく場所がありませんでした。いわゆる立ち止まる場所が無かったんですね。かつては劇場などもあった賑やかな町で、人口も1.5万人が住んでいました。それが、今では5千人を切っています。そういった現状もあるので、小中一貫義務教育学校の整備に伴い廃校となる旧下市南小学校の跡地を、民間業者に有効活用していただこうと思っていました。そして、パルグループに手を挙げてもらって。ただ私たちのこだわりは、やはりここに住んでいる人たちも自由に入れる施設であってほしくて。単に外からお越しになる観光客向けのものではなくて、地元の人も通える場所であるようにお願いしました」
「町の活性化については、今回誕生した「KITO」に頼るだけではなく、ここを柱に町全体で一緒になって進めることが大事です。下市町でできることはする。バス停の名前を『KITO原谷口』とすることなどは我々行政でしかできないことですし、パルグループや町の商工会、観光協会なども参画し、下市町賑わい創出協議会を立ち上げています。例えば、KITOが『フルーツを使ったメニュー』を開発するなら、我々は『交流農園』を企画する、『木材をたくさん使った施設』を建設するならば、近くの山や森を歩けるようにしたらどうだろうと『森歩きコース』を整備するとか、KITOから生まれる次につながる仕掛けづくりを僕らは考えないといけない。あと林業に興味を持つ方が増えてくれたらいいなと。それには何をしたらよいのかも今考えています」
「また、僕がKITOを見て思ったのが、木の使い方がうまいと思いましたね。床や天井、壁など施設全体を木にするのではなく、あえてコンクリート打ちっぱなしだったり、金属製のものを組み合わせたりすることで、木の魅力がより引き立っているなと思いました。これは、行政側の僕では思いつかない木の使い方だったので、新しい発見でした」
「例えば「KITO」の空間に触れて木の良さを少し感じた人々が、2階のギャラリーへ行き木工作品に触れたり、作家との出会いがあったりすると、下市町の住民との触れ合いにつながるなど、そこから生まれる相乗効果を期待したいですね。あと、私たちが期待したいことは下市町への移住者が増えることです。施設は、30代や40代の女性、若いファミリー層がターゲットですが、そんな人々にとって少しでもこの町が気になる存在になればいいなと。数パーセントでも可能性があればいいと思っています。1か月くらい住めるお試し移住、空き家コンシェルジュなどのサービスもあるので、活用してもらえると嬉しいです」
木と共に、きっと出会える!!奈良県下市町に廃校をリノベーションした複合型商業施設「KITO forest market shimoichi」がオープン
パルグループの地方創生プロジェクト。PASSIONとLOVEが生み出す強さ
雑貨店『3COINS』やアパレルブランド『mystic』、『CIAOPANIC TYPY』などで知られているパルグループ。そもそも社内にサスティナビリティ委員会というのがあり、和歌山県白浜町で農福連携事業や旅館・ホステルの企画運営など、奈良県吉野町で植林事業などを展開してきた実績があります。実は今回の下市町の廃校利活用への参画は、パルグループ創業者・井上英隆さんが下市町出身であるなど、さまざまな出来事が重なってのことだそうです。株式会社パルホールディングス・井上真央(まなか)さんにお話を伺いしました。
株式会社パルホールディングス・井上真央さん
「もともと下市町は、私の祖父にあたる井上英隆が高校生の時まで住んでいた故郷で、私も小さい頃から年に二回は必ず訪れている町でした。特に11月頃の柿狩りは、東京で働いていた時も往復10時間かけて日帰りをしてでも行かないといけない、絶対参加の家族行事です。そんな時間を過ごす中で、下市町の文化を感じる、吉野川沿いに多く見られる『吉野建て』の風景は残したいと思いました」
「『KITO』のはじまりは、サスティナビリティ委員会で、会社として地域密着型の事業を始めたいという議題が上がった時に、奈良県下市町はどうかと提案したこと。その後、たまたま友人と下市町を訪れていて、旧下市南小学校前を通り『素敵な校舎だな』と思っていたら、その小学校が廃校になり民間事業社の募集をしていることを知り、応募をすることになりました。ただ、その締め切りが翌月で。急いで企画書などを整えたことを今でも覚えています」
「余談ですが、私は大学で国際教養を学んでいたので、海外での社会貢献ということに興味があったんですね。社会貢献とビジネスをうまくつなげていくことが、大学当初からの夢で。しかしコロナがあって、海外に行けなくなって、国内に目を向けるようになったことで、日本の社会問題、特に過疎化という課題に興味をもつようになりました。また、祖父からも、いつか自分の故郷に還元したいという想いを聞いていたこと、すべてが相まって今回の事業に繋がったと思っています」
企画参画を後押しするような出来事が重なって、パルグループが始めた旧下市南小学校の利活用事業。社内公募制度で集まったチーム4名の中には、下市町に常駐する担当スタッフもいたといいます。2年半という年月をかけて、下市町と向き合い完成した今回の「KITO」でのこだわりや大切にしたいことは?
「こだわったのは“バランス”です。会社・企業で営利を求めながら、地方創生という社会貢献の目的をどう達成するか。社会貢献に重きを置いてしまうと、収益性が低下し、事業として継続が出来なくなることが多いので、持続的に町づくりへ貢献し続けるためにも、いかにバランスを取り、継続させるかを心がけてきました」
「そのバランスを維持するための軸の一つとして、事業が魅力的であること、このプロジェクトに関わっているパル社員が楽しいかどうかを大事にしています。パルグループは、よく『PASSION と LOVE で、PALはできている』と言うんですね。情熱と愛が重要で、それは何かする時にキュンとしたりワクワクしたりすること。KITOオリジナルのクラフトビールのラベルがカワイイ!とか、つくりあげたモノとかコトが、下市町の魅力と繋がっていることが大事だと思います」
施設に吉野杉を沢山使うことになったのは、2年半という歳月で見て聞いて感じてきたことを反映したからこそ。下市町から言われたのではなく自然なことだったそうです。そして、この施設の「木と共に、きっと出会えるKITO forestmarket shimoichi」というフレーズも、向き合ったからこそ出てきた言葉だそうです。
「木材はほとんどが吉野杉です。地元の木材の魅力を地元で体感してもらいたいと思いました。町のテーマのひとつには移住者を増やすということもあって、若いファミリー層、小さいお子さんが学びながら遊べる、居心地の良い木の空間がいいかもと「WOOD PARK」を作りました。そこから本物の木材に触れあって遊んでもらえたらと思っています」
「吉野杉を扱う中で、驚いたのは建物が竣工した時です。館内に入った時の木の香りが素晴らしかった。あと、マルシェなどには入浴剤とか吉野杉を使ういろんな商品がありますが、その香りもとても良くて。吉野杉というと高級なイメージがありますが、お客様により親しみやすいものもご提案したいと想い、マルシェでは木材の日用品も扱っています。あと、レストランでは薪窯を使います。春には桜の薪を使って香り付けして焼くとか、地元の木材を使ってピザを焼くことにこだわっています」
「KITOは下市町が賑わう“きっかけ”になれば良いなと思っています。町内では他にも色々と新しい活動が生まれています。今後も、下市町全体での町おこしの活動に、他のプロジェクトや事業者さんと一緒に、少しでも貢献できるよう頑張りたいです」
最後にシンボルマークの説明を。下市町は、谷あいに位置し豊かな木々に囲まれた環境で、空を90°に仰ぐことができるKITOの立地。そして、90°欠けた円は周りの方々の協力や縁が繋がってこそまん丸になるという意味があります。江戸時代に吉野川の支流である秋野川の谷に発達した市場町、下市町に敬意を払い「また市として栄える」その時代に想いを馳せつつ考えたシンボルマークです。
施設のどこをとっても語るべきストーリーがある「KITO forestmarket shimoichi」。お話を聞けば聞くほど、下市町が魅力的に見えてきて、パルグループがここにかけてきた思いを知ることができます。確かに、キュンと胸躍るようなモノやコトがたくさんあって、訪れるたびきっと新しい発見に出会える場所。気持ちがワクワクする場所。子どもも大人も楽しめる施設なので、天川村や黒滝村に行く前に立ち寄るのも良いですが、KITOを“目的”に訪れてみてはいかがでしょうか。
INFORMATION
「KITO forest market shimoichi」
WEBサイト | https://kito-shimoichi.jp/ |
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https://www.instagram.com/kito_shimoichi/ |
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