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吉野杉の家
人を包み、つながりを温める家ーー<br>吉野杉の家

2017.08.27

人を包み、つながりを温める家ーー
吉野杉の家

人を包み、つながりを温める家

少子高齢化などにより、核家族や独居老人が増加し、地域コミュニティの消失などが社会的な問題になっています。改めてFace to Faceのつながりの大切さが見直される中で2016年10月、奈良県吉野郡吉野町に一風変わった施設が誕生しました。その名は「吉野杉の家」。「家」という名前ではありますが、誰かの住まいではありません。昼は地域の人のコミュニティスペースとして、夜はこの地域を訪れたゲストの宿泊施設として、一軒で2つの役割を担います。ここに泊まりにきたゲストはまず川沿いの縁側から家に入り、1階のコミュニティスペースを通ってロフトへのぼる構造になっています。しかし入り口が縁側とは、ちょっと変わっていますね。しかもなぜ、ゲストのためだけの施設としなかったのでしょうか。「この家は、吉野地域とゲストの“つながりをつくる家”です。そのためにいろいろな工夫を施しており、その一つが縁側なんです」。吉野町役場に勤め、この「吉野杉の家」のプロジェクトに関わった表谷さんはその理由をこう語ります。「ほら、縁側は外でも、内でもない、曖昧な空間でしょ。いつでも誰かがふらっと立ち寄って、会話が生まれる自由な場所を入口として設けることで、交流が自然に育まれる場所にしたいと考えました」。1階のコミュニティスペースは地域の人たちがお茶を飲んだり、世間話をする場所です。そこに縁側からゲストが加わり、くつろいだ雰囲気で話の輪に混ざることで地域のことを深く知り、吉野をまるで自分の故郷のように感じてもらえたら。「吉野杉の家」には地域の方々のそんな願いが込められています。

人を包み、つながりを温める家ーー<br>吉野杉の家

小物などいたるところに、吉野のスギやヒノキが使われています。
酒樽と同じ工法でつくられたおちょこでぜひ一杯を。

たとえば縁側という曖昧な空間の工夫。
“木”דアイデア”により、ユニークな「場」をつくる

そして吉野杉の家は、壁はもちろん、棚も、扉も、テーブルも、シャワールームの内装さえ、ほぼすべて木を用いて造られています。ここまで木にこだわった内装はほかにあまり例がありませんが、決して奇をてらったデザインではなく、「あたたかいつながりを生み出す場所をつくるなら、“ずっとここに居たい”と感じさせる木の空間が一番だ」という吉野の人々の強い信念がそこに込められているようです。室内には木の香りが立ちこめており、寒い季節でも全体の色や手触りからじんわりとあたたかみを感じます。県外から訪れる人はきっとその心地良さに驚くのではないでしょうか。またさらに伺ってみると、1階とロフトでは使われている木の種類が異なるそうです。1階のコミュニティスペースは楽しい会話が弾むように、活気ある赤みが印象的なスギを。ロフトのゲストスペースは安らかにくつろげるように、落ち着きと清潔さを感じる白いヒノキを用いているそうです。建物全体が、吉野の最高のおもてなしの空間といえるかもしれません。木造住宅が少なくなってきた現代の日本では、この家に来て初めて、木の家の魅力に気づくゲストも多いかもしれません。じかに木に包まれ、そのぬくもりに触れて、吉野の木がいかに人の感性に訴えかける素材かを知ってもらう。そんな体験と気づきの場にもなれば嬉しいと、表谷さんは語ってくださいました。この一風変わった家とそこでの交流から、木の魅力を知る人が増え、吉野の林業の歴史が広く知られるようになることを、吉野の人たちは願っています。

人を包み、つながりを温める家ーー<br>吉野杉の家

「吉野杉の家」が建っているのは、吉野川のほとり。かつてこの場所では、吉野の山から流れてきたイカダの検査が行われていました。山と利用者をつなぐ、いわば出会いの場であったことを意識してこの場所が選ばれました。また特徴ある三角屋根は、奈良の民家の形式でもある二段勾配の屋根「大和棟」を模しています。地元の大工や職人の技により、吉野の歴史や伝統を感じられる工夫があちこちに散りばめられています。

2017.08.27

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吉野杉の家

2017.08.27

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2017.08.27

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