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吉野檜あかり
深い心の奥に、優しいあかりを灯すーー<br>吉野檜あかり

2017.08.28

深い心の奥に、優しいあかりを灯すーー
吉野檜あかり

深い心の奥に、やさしいあかりを灯す

ロウソクの火をじっと見つめていると、心が落ち着いてきませんか。ゆらめく炎や夕陽に見られる「深いオレンジの光」は人の副交感神経を高め、リラックスさせると言われています。古来から人は、まぶしい太陽の光とともに活動をはじめ、日没とともに休息をとるというサイクルの中で暮らしてきたため、夕暮れ以降に目にするオレンジの光に自然と安らぎを感じるのかもしれません。「私たちが夜、明るく白い蛍光灯などの光の下で過ごすのは、本来不自然な状態なんですよ」と話すのは、「あかり工房 吉野」の坂本さん。彼女は学生時代に光で人を癒やす「ライトセラピー」という考えに感銘を受け、それ以来、あかり作家として人を癒やす照明づくりを行ってきました。アトリエを訪ねてみると、深いオレンジの光を放つ照明が所狭しと並んでいます。工夫を凝らされたいろいろなデザインがありますが、よく見ると共通しているのは薄くスライスした吉野檜や吉野杉を素材として貼りあわせているところ。和紙の上から切り絵のように貼って模様をつくっているものもあれば、照明の形そのものが薄い木でつくられているものもありました。「深くてやわらかいオレンジ色を出すために、最初はいろんなものを光にかざしてみたのですが、なかなか理想通りにはいきませんでした。そんなとき、たまたま身近にあったカンナ屑をかざしてみたんです。実家が吉野檜専門の製材所でしたから。すると、透けて見える光の色合いや、浮かび上がる木目が美しくて、“これだ!”と思ったんです」。これをきっかけに坂本さんは、吉野の木を用いた照明づくりに取り組みます。

深い心の奥に、優しいあかりを灯すーー<br>吉野檜あかり

素材の吉野檜は、向こうが透けるほど薄くスライスされても、良い香りが。

古来から人が見つめ続けてきた
オレンジの光と木目のやさしさを

しかし実際は、そこからが大変だったそうです。まず素材の入手が困難でした。カンナ屑は本来捨ててしまうもので、わざわざつくっている人がいないため、坂本さんが求める薄さ約0.1mm、長さ1mの木のスライスシートを手に入れるには、懇意の方に特別にお願いしたり、自分自身で技術を修得して削り出さなければなりませんでした。そのため坂本さんはいつの間にか、カンナの刃を微調整する職人の技術を身につけたのだとか。また作品づくりの工程においても、自然に発生する木の反りを抑えるために、どのようなボンドを調合し、どの分量で使えばいいのかなどの検討が必要で、結局、納得できる照明づくりができるまで2年ほど試行錯誤を繰り返したそうです。そこまでして、なぜ木でつくることにこだわったのでしょうか。「オレンジの光は人を癒やす効果がありますが、木目も人を癒やしてくれると気づいたんですよ。専門的には“1/fゆらぎ”といいますが、年輪の規則正しさと不規則さが、人にとってちょうど心地良い癒やしのデザインなんです」。その不揃いの美を意識してのことでしょうか。坂本さんの作品は一つの作品の中でヒノキとスギを混ぜて使ってみたり、木のシートをランダムに貼ってみたり。そうした“ゆらぎ”の工夫が光の奥行きや色味に複雑な変化をもたらし、並べてみると実に幻想的に感じられます。この照明を利用された方からは「寝付きが良くなった」という声を聞くそうですが、確かに心の落ち着きが得られそうです。いま自分の生活のペースにちょっと疲れたなと感じる人は、坂本さんの作品を部屋に置いて静かに見つめてみてはいかがでしょうか。木を通して届けられるオレンジの光が、あなたをやさしく包み込んでくれます。

深い心の奥に、優しいあかりを灯すーー<br>吉野檜あかり

幻想的なオレンジのこの光は、個人の家だけではなく、料亭や旅館の照明やふすまのデザインとしても使われています。リラックスできる光の下では、不思議と心が開いて相手と話しやすくなるのだとか。また、照明の上に陶器のアロマ皿を乗せることができる作品もあり、美しさと香りの両方から癒やしを感じられます。

2017.08.28

深い心の奥に、優しいあかりを灯すーー
吉野檜あかり

2017.08.28

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