2024.03.28(更新日)
誰もが活き活きと過ごせる 奈良の木を使った福祉施設
※CLT・・・Cross Laminated Timber(JASでは直交集成板)の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。構造躯体として建物を支えると共に、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果も期待されている。
<奈良市青山>ぽれぽれケアセンター青山
社会福祉法人うねび会が運営するぽれぽれケアセンター青山は、2023年5月、高齢者総合福祉施設として奈良市青山地区の閑静な住宅街にオープンしました。「ぽれぽれ」という名前は、スワヒリ語で「ゆっくり」という意味で、その人に寄り添った介護をという思いが込められています。「奈良の木の住まいでいつまでも健やかに暮らしたい」をコンセプトに、住宅型有料老人ホームとリハビリ強化型デイサービス、ケアプランセンター、ヘルパーステーションの機能があり、青山地区の地域の交流の場となるように、有料老人ホーム棟の1階には、地域の方も利用できるコミュニティカフェを併設しています。
地域の方にも開放されているコミュニティーカフェ
施設に奈良の木を使ったことによって利用者や働く職員にどのような影響があるのでしょうか?社会福祉法人うねび会(以下うねび会)の理事長 酒井 宏和さんと、施設を設計した一級建築士の村田 和久さんにお話を伺いました。
奈良の木をどこに使用しているか教えてください。
デイケアサービス棟の奈良県産の杉を使った大きな梁
村田さん 住宅型有料老人ホーム棟は軸組工法※で建てられ、一部2階の床と屋根にCLTを使っています。構造材はそのほとんどに奈良県産の杉と桧を使用し、梁の間隔が広い部分のみ、一部外国産材を使っています。この建物は、準耐火建築のため、構造部分を現(あらわ)し※で見せることができないのですが、1階カフェの壁部分に、CLTを見ることが可能です。エントランスの柱は奈良県産の桧を使用しており、美しい木目が訪れる人を優しく出迎えてくれます。
※軸組工法・・・柱を垂直に建て、梁を水平に渡し、屋根を組む工法。
※現(あらわ)し・・・建築物で、木材を覆わずそのまま露出して使用していること。
住宅型有料老人ホーム1階の居間・食堂スペース
住居型有料老人ホームの居室
構造材には100%奈良県産材を使用しました。デイサービス棟は壁と屋根にCLTを使用しています。吹き抜けの天井には、杉の集成材を使った大きな梁がはりめぐらされており、印象的な空間づくりに一役買っています。老人ホーム棟とデイサービス棟をつなぐ渡り廊下や、棟と棟のあいだにあるパーゴラには無垢の桧を使用。ここは、地域の方の交流の場としても活用されています。
地域の方の交流の場にもなっているパーゴラ
村田さん CLT工法は柱や梁の軸組工法と違い、壁そのものが構造体となるため、柱のない大空間を実現できます。柱がないので車椅子での移動がしやすく、全体が見渡せるので職員の目が行き届くという利点も。加えて耐震・耐火・断熱に優れていることから、老人ホームやデイサービス施設など福祉施設に向いている建築工法だと考えています。
施設を建てるにあたり、なぜ奈良の木を使用しようと思ったのか教えてください。
酒井さん うねび会として奈良の木を使った施設は、2016年5月開設の住宅型有料老人ホーム『ぽれぽれ白橿コンフォート』にはじまり、2020年5月開設の在宅支援交流センター『ぽれぽれ八木西スクエア』に続いて3カ所目になります。先の2施設で、利用者の方が活き活きしていることや利用者同士の関わりがこれまでの施設より多く見られたこと、職員の離職率が低かったことなどの効果を実感。また、国の補助金を活用できることから、奈良県産材を使用することを決めました。
『社会福祉法人うねび会』理事長 酒井宏和さん
施設の中で木を使って良かったと感じることはありますか。また、こんなことにも木を使ってみたいと思うことがあれば教えてください。
酒井さん 木の建物は断熱効果が高く、触れたときに温もりを感じますし、利用者の方が転倒してしまった場合でも衝撃が小さいなど、福祉施設にとって多くのメリットがあります。マウスを使った実験でも、金属やコンクリートで作られた環境より健康に良く、長生きするという結果も証明されています。これまでの施設でも木の良さを実感していることから、来年、私たちのグループではCLTを使用し、予防介護と要介護の施設を建設する予定です。
実際にデイサービス棟に通っている利用者の方に、奈良の木を使った施設の雰囲気について伺ったところ、「週2回、通い始めて3カ月になります。とても気持ちがいい場所なので、まだ1日も休んだことがありません。前に利用していた場所と比べて、環境が自分に合ったみたいで楽しく通っています」と教えてくださいました。酒井さんは「利用者の方が通いたくなる魅力を追求したい」と今後の目標を語ってくださいました。
1階コミュニティーカフェ壁部で見れるCLT
屋根裏から見えるCLT
住宅型有料老人ホーム棟2階の居間・食堂スペース
INFORMATION
ぽれぽれケアセンター青山
住所 | 〒630-8101 奈良県奈良市青山4-3-3 |
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URL | https://www.porepore.co.jp/office/nara/aoyama/ |
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2024.03.28(更新日)
誰もが活き活きと過ごせる 奈良の木を使った福祉施設
<奈良市大宮町>ぷろぼの福祉ビル『Fellow Ship Center(フェローシップセンター)』
2016年7月、近鉄新大宮駅から徒歩約4分という便利な場所に、障がい者の就労支援を行う社会福祉法人ぷろぼの(以下ぷろぼの)が運営するぷろぼの福祉ビル「Fellow Ship Center(フェローシップセンター)」が完成しました。
障がいのある方の就労による自立した生活の実現に向けて、この福祉ビルの2階から4階では、将来的に働いて自立することを目指す中高生を対象とした放課後等デイサービス、就職前に身に付けておきたいことを体験的に学べる自立訓練、働くための社会人スキルの習得を目指す就労移行支援、障がいがあっても支援を受けながらWEB制作やデータ入力といった仕事ができる就労継続支援、企業とのマッチングフォローや就職後の職場定着までをサポートする就労定着支援など、利用者の段階に応じたきめ細やかな就労支援を行っています。その結果、過去11年間(平成24年度~令和4年度)で355名の方が就職するという実績を残しています。
1階のぷろぼの食堂では、障がいのある方がキッチンやホールスタッフとして働く姿も見られ、ランチタイムには施設利用者だけでなく、多くの近隣住民の方が訪れます。また、特定非営利活動法人大宮地区社会福祉協議会と連携し、小学校が長期休みとなる期間にこども食堂を開催。地域貢献にも一役買っています。
5階はセミナールームとなっており、施設内のイベントや一般向け貸し会議室として活用されています。
障がいのある方が働く1階のぷろぼの食堂
『ぷろぼの福祉ビル フェローシップセンター』は、まだ全国的にもCLTが知られていなかった頃に奈良県内で初めてCLTを用いて建てられました。なぜ、あえてCLTを活用しようと考えたのか、また、なぜ奈良の木を使おうと思ったのか。
社会福祉法人ぷろぼのの理事長を務める山内 民興さんにお話を伺いました。
奈良の木をどこに使用しているか教えてください。
『社会福祉法人ぷろぼの』理事長 山内 民興さん
山内さん 基本的に建物の大部分は奈良県十津川村産の杉と桧を使用しています。CLTには杉を使い、2階から5階の内装には杉の赤身、外装は桧を使用しました。1階にある『ぷろぼの食堂』の内装は、杉や桧、桜、栗など12種類の板を使用し、パッチワークのような仕上げとなっています。すでに完成から約8年になりますが、外観も含め、劣化が少ないことに驚いています。
施設を建てるにあたり、なぜ奈良の木を使用しようと思ったのか教えてください。
山内さん これまでの拠点が手狭になり、新しい建物を建てようとなったときに「やはり木の建物がいいよね」という話になりました。せっかく木を使うのであれば、地域に貢献するために、県産材を使用した建物を建てたいと思いました。また、県産材を使ったモデルルームは山に近い場所に多いですが、街中で県産材を使った事務所を建設するとモデルになると思いました。しかし、予定の敷地面積に必要な条件を満たす建物を建てようとすると、5階建てにする必要がありました。設計を担当していただいた大阪の浅田設計室に5階建ての木の建物が建てられるかどうか相談したところ、CLTで設計したいという提案がありました。CLTは縦横の揺れに強く、建物内の室温を一定の温度に保ちやすいという素材面のメリットがあります。また、CLTには、柱などに使えなかった木材を利用することが出来るため、CLTを使用することで地域材の活用に貢献できると思いました。奈良県内で初めての建築に県産材を使ったCLT5階建てビルの建築ということもあり、設計をはじめ、施工業者の選定、奈良県産材をどこでCLTに加工するかなど、解決すべき問題は山積み。しかし、関係各社のご協力のおかげで、ビルの完成を実現することができました。私は、奈良の人が奈良のことをもっと大事にしていかなければならないと考えています。春日山原生林も先代の人たちが守ってきたから今の状態がある。それと同じく、地域の人が地元の木を使って林業を支えていかなければいけません。ですので、地元の木を使ってこんな立派な建物を建てたのだということを建設に関わった方たちが誇りに思って自らの仕事を語れるようにという想いで「フェローシップセンターができるまで」という冊子を作成しました。冊子には、木が伐り出され、その木が建物に使われビルが完成に至るまでの一連の様子が分かるようになっており、ビルの建築に関わった方々の氏名が掲載されています。
ビルの完成後も、5階のセミナールームで建築家を集めてCLT施設の研修会を開催したり、CLT建築を見物したいということで今でも施設を見学に来られる方もいます。
施設見学の際に使用されているCLTの模型
施設の中で木を使って良かったと感じることはありますか。また、こんなことにも木を使ってみたいと思うことがあれば教えてください。
5階のセミナールーム
4階訓練場ではITスキルの習得を目指します
山内さん 内装にも多くの木材を使用していることから、職員も利用者の方も木材ならではの温かさと柔らかさを日々感じています。また、杉の木目も安心感を与えてくれます。空気の温度や湿度が安定していることで快適性があり、落ち着きが得られるということはあるかもしれません。職員からもここで働けて良かったという声を聞いています。国道に近い場所に建物はありますが、窓を閉めるとほとんど雑音が聞こえず、外の音だけでなく、建物の上下階の音も遮断します。そのため、利用者は音によるストレスを感じること無く、建物内で過ごすことが出来ます。構造部分も含めて内外の主要な部分は、奈良県産の木材を使用しているので、現在の仕上がりに非常に満足しています。
実際の窓に使われているCLTの厚み
施設を利用している方の声を聞いてみました。
Aさん 「私は障がいの特性上、音にとても敏感で、作業をしていても周りの音や声によって集中できないことがあります。見学に伺った際、街中にあるにも関わらず、音が気にならなかったので驚きました。静かな環境、さらに木の温かさを感じながら作業ができることが、利用の決め手になりました。」
Bさん 「ぷろぼのを利用して2~3年目になります。訓練所内の温かさや安心感といった部分は、当初から変わりません。作業で疲れを感じても、建物の雰囲気のおかげで気持ちの休まり具合が違うように思います。」
他の利用者も「ビルに入る時に温かみを感じる」「気持ちが和み、安心する」など好意的な印象を持たれています。また、他の福祉関連施設を比較して、「訓練をしていても、外の音があまり気にならず集中できる」「雰囲気が柔らかく、体感的にも温かい」というメリットを実感されているようです。
福祉施設をはじめ、誰もが活き活きと過ごせる空間づくりにこれからも奈良の木が活用されることが期待されます。
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