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奈良・吉野から新たなブランド材を。独特の美しさを持つ『吉野百年黒杉』が生まれたストーリー。

2023.09.25(更新日)

奈良・吉野から新たなブランド材を。独特の美しさを持つ『吉野百年黒杉』が生まれたストーリー。

奈良県の吉野地域は、三大人工美林の一つに数えられる日本有数の林業地です。吉野地域で産出される杉は吉野杉と呼ばれ、節の少なさや年輪の細かさとともに、中心部の淡い赤み混じりの上品な色合いが特徴であるとされてきました。

しかし、同じ吉野地域から伐り出された杉であっても、「これぞ吉野杉」といえる色合いを持ったものは、実は全体の半分にも届かないそうです。それ以外の杉は、赤みが深かったり黒みがかったりしており、淡い赤色の杉と比べると価値が低いものとされてきました。何世代にもわたって手間暇かけて育ててきた吉野地域の杉、色合いが異なっていても、節の少なさや年輪の細かさは同じです。黒みがかった杉は価値が低いという常識を見直してみるところから、吉野杉の新たなブランド開発につながりました。

今回は、この新しいブランド『吉野百年黒杉』の誕生に携わった林業・木材産業の関係者にお話を伺い、新ブランド誕生の経緯や、それぞれの想いに迫ります。

Q.中心部が黒みがかった杉を吉野杉の新しいブランド『吉野百年黒杉』として打ち出すことになった経緯を教えてください。

―上吉野木材協同組合 尾上さん

一般的に吉野杉の心材(丸太を輪切りにした時に中心部分にある色の濃い部分)は、淡い赤色のイメージがあり、黒い心材の杉(以下黒杉)はあまり人気がなく、扱いにくい木材でした。安く売るのではなく、なんとか良いものとして売れないか。そこで、黒杉の性質を一度検証し、価値を見直せないか。山の形状や状況にもよりますが、一般的に好まれる淡い赤色の心材の杉は全体の1/3あるかないか。それ以外は黒かったり変色していたりします。それらの市場価値を上げられれば、少しでも山に還元できる(売り上げを渡せる)のではないかと考えました。製材所、林業のプロたちからも「同じ杉なのに価値が変わってしまうのはおかしい」との声があり、奈良県森林技術センターに検証を依頼しました。

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Q.上吉野木材協同組合から検証の相談を受けたとき、どのように黒杉について感じましたか。

―奈良県森林技術センター 酒井さん

心材の色が赤やピンクの木材だと良い値段で取引され、色が黒っぽいと低価格になると聞いて、同じ山で100年かけて育てても、伐って色が違うとそれだけで値段が下がってしまう。同じように手間暇かけて育てたのに・・・。林業はすごくリスクが高い産業だとあらためて感じました。そこで、色以外の尺度で見ることで黒杉に何か長所を見出せるのではと、それを調べてみようとなりました。

Q.検証結果はどういうものでしたか。またそれをどう思われましたか。

―奈良県森林技術センター 酒井さん

木材の色の違いは、そこに含まれている微量成分が原因ではないかと考え、心材が淡い赤色の杉と黒色の杉のそれぞれの成分を分析しました。腐りやすさ、シロアリに対する抵抗性、カビの生えやすさ、そういった性質は杉に含まれる微量成分の影響を受けます。また、木材は強度が重要なため、曲げ強度試験を実施して強度も調べました。一連の成分分析と材質の検査をした結果、菌・微生物に強い抗菌力、シロアリに抵抗力のある防蟻力(ぼうぎりょく)のある成分が黒杉には多く含まれていることがわかりました。強度は色による違いはなく、いずれも杉としての強度がきちんとありました。心材が淡い赤色の杉と黒杉の成分の種類に大きな差があったわけではありませんが、どちらかというと黒杉の方が成分量が多い結果となりました。ただ、木の個体差もありますし、どちらも変わらず良質な木材というのが正直なところです。

谷筋に育つと黒い杉になるという説もありますが、谷筋だからといって全部が黒くなるわけでもなく、全国的にも黒杉になる理由は、統一見解が出ていません。淡い赤色の心材の杉は昔から優良として取引されていましたが、黒杉も同じように良い木材なら需要が広がらないかと思いました。他の県でも20年以上前に黒杉に関して検証されたことがありました。そこでもそれぞれの杉を比較し、同じく黒杉が抗菌力、防蟻力が高いといった検証結果が出ていたのですが、その県に問い合わせると、黒杉の検査結果を積極的に利用したことがないとのことでした。検証結果をどのように活用するかが大切で、その役割は、原木市場を持つ上吉野木材協同組合さん、製材所が主だった組合員である吉野製材工業協同組合さんのお仕事。実は心配しながら見守っていたのですが、『吉野百年黒杉』と愛称を付け、新しいブランドとして売り出されると聞いて、材質を検証した者として大変嬉しく思っています。私たちは、「杉は赤い方が良い」と思っていましたけれど、一般の方はそこまで色にこだわらず、いろいろな風合いを楽しんでもらえるのではないかと。昔は節がないものが良いとされていましたが、今は自然な印象があるからと節のあるほうを好む人もいます。時代と共に好みや感じ方が変わり、価値観が多様になっています。時代に合わせて、赤も黒もどちらも良いとの考え方が今の時代に合うのではないかと感じています。

Q.黒杉の魅力とは何でしょうか。

―上吉野木材協同組合 尾上さん

検証結果だけでは自分たちでも黒杉の良さにピンとこないところもありましたが、昨年、上吉野木材協同組合の休憩棟を外装も内装も黒杉を使って建物を建ててみたところ、木目が美しく落ち着く風合いを醸し出していました。検証結果で腐食に強いとあったので、外構としてアピールしようと思いましたが、実際に建ててみると、風合いを楽しむために内装に使っても良いと感じました。また、淡い赤色の杉と変わらずに木の香りを楽しめるのもあります。原木の段階で黒いものを選んで集めてみましたが、同じ山であっても伐ってみて全部が全部心材が黒くなるのではないことがわかりました。逆に黒杉ばかりを集めるのも難しいですが、木目が美しく、心材が黒い木材である黒杉にも希少価値が出てくると思いました。

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上吉野木材協同組合の休憩棟

奈良・吉野から新たなブランド材を。独特の美しさを持つ『吉野百年黒杉』が生まれたストーリー。

吉野町立小中一貫教育校 吉野さくら学園の木塀

Q.「吉野百年黒杉」はどのような経緯でネーミングしましたか。

―上吉野木材協同組合 尾上さん

理事長たちと検討を重ねた結果、「吉野」「百年」は外せないなと。100年以上の黒杉を扱うからです。100年以上の木はそもそも希少性が高く、それを出せるのは吉野地域だからこそだと思います。

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2023.09.25(更新日)

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Q.『吉野百年黒杉』というブランドを打ち出して、周りの反応はどうでしたか。

―吉野製材工業協同組合 樫本さん

検証結果が森林技術センターの酒井さんから最初に発表されたのが4年前。それから昨年(2022年)、黒杉を積極的に売り出そうとなりました。今年(2023年)1月に東京ビッグサイトで行われた材木の展示商談会で来場者参加型で黒杉を材料としたウッドデッキを組み立てたところ、木材自体に光沢があり、とても綺麗に仕上がり、参加者からも好評でした。来場者の反応も、心材が黒色であっても吉野特有のピンク色でもあまりこだわっていないように感じました。また、1日目の商談では、正直に「黒杉は材木全体の3〜5割くらい出ます。しかし、黒みがかった杉は残ってしまうから売りたい」と説明したのですが、意外にも来場者からの評判が良かったため、2日目は打ち出し方を変え、本来の黒杉の良さを伝えることにしました。「黒杉は油分があり光沢がある。唯一無二の色味を醸し出し、デザイン性に優れている」とPRすると、木工作家、建設会社、建材の総合商社などからの引き合いが非常に多く、正直驚きました。これは需要があるのではないかと。黒杉も同じように吉野杉として売り出して、少しでも山に還元したいと思いました。また、分析された検証結果を説明して、「外構としては、油分が多いので腐りにくくシロアリに強い。内装は、施主に喜ばれるような独自のフローリングや空間になる」と伝えると、「これは良いね。センスも良いし」と思いのほか反響がありました。

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東京ビッグサイトで行われた展示商談会の様子(2023年1月撮影)

Q.『吉野百年黒杉』の可能性を感じていますか。

―吉野製材工業協同組合 樫本さん

実際に黒杉を見た人の反応は私たち林業関係者からは意外なものでした。ちょうど今(2023年4月末時点)、施工中ですが、奈良県内の観光施設に『吉野百年黒杉』が使われることになりました。また、商談中ですが、家のフローリングに使いたいといった話や、海外の高級物件で使用したいなどの話、建材の総合商社から商品カタログに掲載し販売したい、建築事務所から施主に黒杉をすすめたい、木工作家から木目のストライプが美しいので欲しいとの声があり、これからますます、黒杉の価値が広がる可能性を感じています。

奈良・吉野から新たなブランド材を。独特の美しさを持つ『吉野百年黒杉』が生まれたストーリー。

『吉野百年黒杉』を使用した吉野貯木場の立看板

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黒杉の製材(吉野中央木材株式会社)

最後にこれからの『吉野百年黒杉』の展望について尾上さん、酒井さん、樫本さんそれぞれに伺いました。

―上吉野木材協同組合 尾上さん

これから黒杉は希少価値が出てくると考えています。黒くて節がなく綺麗な木目の木材は、そう多く採れるわけではありませんし、樹齢100年を超える木材を出せるのは吉野地域だからこそ。吉野で長い年月で育ててきた木をいかに価値のあるものにしていくか。先代たちが植えた大事な木。黒杉も同じ吉野杉として、自分たちの代で価値のあるものとして売り出していきたい。

―奈良県森林技術センター 酒井さん

杉と一言でいっても、北は北海道、南は沖縄県まで人工林があります。吉野林業は500年の歴史があり、広い地域で長い年月の間、人の手によって植栽されてきました。各地域の杉には遺伝的にもいろいろな特徴があり、木の育て方も地域で工夫されていて、多様さもあり、奥深さもあり、『吉野百年黒杉』もその一つであると感じています。

―吉野製材工業協同組合 樫本さん

実は今まで、川上・川中・川下の縦の連携ができていませんでした。林業関係者が上手く機能していけるかどうかは今後の私たちの行動にかかっています。市場の状況も見ていますが、まだまだ組合員が積極的に黒杉を買っている姿が少ないところ。これから営業をかけたり、SNSを使ったりして、PRしていくつもりです。そして、工務店、設計士にも広く知っていただき、製材品として成り立っていくまで成長を見届けていきたい。今は『吉野百年黒杉』という名称を広く浸透させ実績を積み、地域団体商標登録を目指しています。そうしてブランドを確立させることで、更に『吉野百年黒杉』の価値を広めていきたいと考えています。

先代たちが大切に育てた吉野杉を大事に思い、その多様さや奥深さを追究した結果生まれた『吉野百年黒杉』。その誕生の背景には、吉野林業の歴史や文化を次の世代に残したいという尾上さん、酒井さん、樫本さんなど木材関係者たちの強い想いがありました。

時代とともに人々の価値観が変わるなか、吉野杉も『吉野百年黒杉』というブランドで新たな一歩を踏み出そうとしています

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