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林業発祥の地で学ぶ、次世代の為の森づくりーー奈良県フォレスターアカデミーが目指す未来とは

2021.09.03

林業発祥の地で学ぶ、次世代の為の森づくりーー奈良県フォレスターアカデミーが目指す未来とは

日本最古の植林の歴史を持つ、奈良県・吉野地方。
2021年4月、この地に次の時代にむけて林業を学ぶ学校が設立されました。

その名も『奈良県フォレスターアカデミー』。
この学校は、「森林と人との恒久的な共生」を目指し、森林環境管理に関する専門的な知識をもち、地域の特性に応じた森林環境管理を実践することができる技術を備えた人材「フォレスター」を養成することを目的として奈良県が設立しました。

林業発祥の地で学ぶ、次世代の為の森づくりーー奈良県フォレスターアカデミーが目指す未来とは

日本には林業大学校がいくつもありますが、この『フォレスターアカデミー』で学べることは林業の知識だけではありません。私たちの生活の源である森林を未来につなぐため、後世に残る森林を創り出すための知識や技術を学ぶことができます。

今回は、そんなフォレスターアカデミーの校長・藤平 拓志さんに、奈良の森林の現状や奈良県が目指す林業の姿、そしてフォレスターアカデミーがそれらに対して果たす役割などについてお聞きしました。そして、取材当日に実施された吉野町の町長・中井 章太さんによる特別講義の様子を交えながらお届けします。

インタビュー:藤平 拓志さん(奈良県フォレスターアカデミー校長)

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藤平 拓志さん(奈良県フォレスターアカデミー校長)

――まずあまり耳馴染みのない「フォレスター」という言葉の意味から教えてもらえますか?

要するに「森林を管理する人」と思っていただけると良いです。我々がモデルにしているのは、ヨーロッパの森林官、吉野地方でいうと山守といわれるような人ですね。ただ、「フォレスター」という言葉自体はヨーロッパだけでなく、アメリカでも使われています。

――フォレスターアカデミーを設立した理由は? その理由の中にある奈良の森林が抱えていた問題点を教えてください。

奈良県は特に吉野林業地域が全国的にも有名な林業地域ではあるんですが、バブルが弾けた頃から木材価格が下がり、山を管理する人材も減り、結果として手入れされていない山が増えてきました。ただ、奈良県の森林というのは、他県と違って私有林が非常に多いんです。国が所有する国有林とは違い、個人や企業が所有している山が多いということなんですね。人の財産に手をいれて保全するには、ある程度の仕組みを作る必要がありました。そのため、奈良県では平成18年度より森林環境税を導入して、山の手入れを公的にする枠組みを作ってきました。にも関わらず、山を管理できていなかったことも一因となって、未曾有の豪雨による平成23年紀伊半島大水害で山が尋常ではない崩れ方をして、大規模な土砂災害が発生してしまったんです。

――県独自の取り組みをしていたにも関わらず?

そうですね。県独自の取り組みといっても、全ての山を同じ枠組みの中で管理していました。でも、山というのはやはり一つ一つ違うんです。その違いを見極めながら山づくりをするために、まず奈良県ではスイスの森林環境管理制度を参考として、奈良県に適した「新たな森林環境管理制度」の構築を目指しました。そして、その制度を担う人材を育てていくことも重要だと考え「フォレスターアカデミー」を設立することとなりました。

――なるほど。奈良県には独自の条例がありますが、それもそういった経緯があって制定されたのでしょうか?

はい。県が何か取り組もうと思うと、一つの決意表明のようなものが必要だと感じました。そこで、県独自の「奈良県森林環境の維持向上により森林と人との恒久的な共生を図る条例」を令和2年に制定しました。

――「恒久的な共生」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

最近の言葉でいうと「持続可能性」という意味ですね。人と森とが良い関係を保ちながら生活していけるような。環境負荷を最小限にしながら、森は森で持続性を持たせて、人間としても生活基盤を維持しながら過ごしていける、森林と人との良好な関係を築くというビジョンから「恒久的な共生」という言葉を使っています。

――なるほど。そういう森林を作っていくために、「フォレスター」が必要だったんですね。

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――実際フォレスターアカデミーではどのような内容を学ぶことができるのでしょうか?森林作業員学科とフォレスター学科の違いについて教えてください。

森林作業員学科は1年コース、フォレスター学科は2年コースです。ただ、カリキュラム的にはフォレスター学科の1年目は森林作業員学科とほぼ共通の内容です。この部分は実際の作業内容であったり、森林生態の原則であったり、吉野林業の歴史であったり。作業員としてもフォレスターとしても押さえておくべき基礎的な部分を1年生で学びます。

そして、フォレスター学科の2年生では、マネジメント的な部分を学びます。例えば、市町村の森林組合に就職した場合を想定すると、即戦力になれるように市町村の林業行政の事務作業、経営の人材も不足しているので森林組合、林業事業体の経営方法や財務諸表の扱い方。それから、現在、問題になっている、所有している山の境界がわからないといった場合に、その境界を明確化するために必要な知識について学びます。

――どういった方が受講されているのでしょうか?年齢もバラバラという印象です。

そうですね、現職の公務員が6名いますが、それ以外の方は年齢もバラバラです。ほとんどの方が全く別の業種から入ってきた未経験者ばかりです。ちなみに年齢層のコア層は30代。そして県内の方と県外から来た方でいうと半々。男女比でいうと、今年の入学者は男性のみですが女性も大歓迎です。

――作業員として、力仕事もあると思いますが、男女でやることは変わらないんですか?

そうですね、やることは変わりませんし、カリキュラムも同じです。実際に林業に従事されている方で女性もいます。体力面で少し差がでるものの、チェーンソーを持って森に入って作業もします。機械の種類が増えてきて特に力もいらないので、扱い方さえ学べば女性も活躍できますよ。

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――そうなんですね。全く別の業種から入ってきた未経験者の方々はどういったきっかけで受講されているのでしょうか?

面接でよくお聞きしたのは、環境や国土保全的な部分に注目されて、「環境を守りたい」「自分にも何かできないか」という方が多かったです。「学校のカリキュラムをみて、環境のことを深く学べるんじゃないか」という意見もありました。単純に林業の技術を磨きたいというだけではなく、プラスアルファの部分を目指している方々が多い印象です。

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真剣な眼差しで授業を受けるフォレスターアカデミーの生徒

――最後に、フォレスターアカデミーが目指す人材について教えてください。

林業といっても、やはりベースには「自然」があります。自然の原理・原則・摂理に反する林業はやはり続かないだろうし、災害を引き起こします。私たちはただ木を育てるのではなくて、森づくりのための思想も大事にしています。そういう部分を理解した上で現場で住民の意見を聞きながら落とし所を見つけて、より良い山作りをしていけるのが本当のフォレスターだと思っています。そのため、フォレスターアカデミーの生徒の方々には、自然の原理・原則・摂理をしっかり理解した上で、地域に根ざし、自分で考えて行動できるようになってほしいですね。

林業発祥の地で学ぶ、次世代の為の森づくりーー奈良県フォレスターアカデミーが目指す未来とは

フォレスターアカデミーでは外部講師として、プロの技術者や大学教授、林業事業者など、林業の現場に現役で携わる方々の講義を受けることができます。フォレスターになるために、教科書だけでは知り得ない知識や経験を積むことができるのです。

この日は吉野町の中井町長による特別講義が実施されました。前半は山守としてのお仕事もされている中井町長が管理されている山を巡りながら、後半は校舎に戻って町長自ら「吉野林業と木の町吉野の取組について」というテーマで地域と山との関わり方について学びました。実習林ではなくリアルな山の姿を見ながら、吉野地域がどういった林業を営んできたか、山を見ることによって生態系や水脈がわかる、といった貴重な話をメモを取ながら真剣に聞き学ぶ姿が印象的でした。

2021.09.03

林業発祥の地で学ぶ、次世代の為の森づくりーー奈良県フォレスターアカデミーが目指す未来とは

「地域課題の調査と解決Ⅰ」

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最後に、今回フォレスターアカデミーで特別講義をされた吉野町の中井町長に、フォレスターアカデミーに期待していることをお聞きしました。

インタビュー:中井 章太 町長(吉野町)

林業発祥の地で学ぶ、次世代の為の森づくりーー奈良県フォレスターアカデミーが目指す未来とは

中井 章太 町長(吉野町)

――フォレスターアカデミーに期待されていることはありますか?これからの林業を担う、皆さんに向けたメッセージをお願いします

日本は森林管理の制度や森林の区分などがまだまだきちんと整備されていないのが現状です。奈良県のフォレスターアカデミーはスイスの森林環境管理制度を参考にしています。そういう制度設計を、まずは奈良県が率先して進めていき、最終的には国の制度設計まで発展できるようになって欲しいですね。

国の制度設計を進めるためには、1つの山だけではなく、日本中の山を順に見て、それぞれの地域の土壌や地質、文化、歴史を見極める必要があります。そういうことを実践するためには、吉野の山が適しているのです。ですから、日本の森林管理の制度を新しく作っていくような人材を吉野町が、奈良県が、育てていかなければなりません。

そして、新型コロナウイルス感染症の影響でウッドショックが起こり、林業や木材への関心が高まっている今がまさにそのタイミングだと思います。輸入材が不足しているという視点だけでなく、木がどういう流れで山から皆さんの手元に渡るのかをみせることができるチャンスなんです。木に関わる人が、吉野に学びに行こうと思ってもらえるようになることを期待しています。

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INFORMATION

奈良県フォレスターアカデミー
令和4年度入学募集要項

募集人員 学科(期間)
フォレスター学科(2年)・森林作業員学科(1年)
募集人員
両学科で20人程度
募集日程 第一回
出願期間:令和3年8月23日(月)〜10月1日(金)
試験日:令和3年10月10日(日)
合格発表:令和3年10月18日(月)
第二回
出願期間:令和3年11月1日(月)〜12月3日(金)
試験日:令和3年12月11日(土)
合格発表:令和3年12月20日(月)
第三回
出願期間:令和4年1月11日(火)〜2月18日(金)
試験日:令和4年2月27日(日)
合格発表:令和4年3月7日(月)
詳細はこちら https://nfa.ac.jp/guideline/

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