2023.09.21(更新日)
越後の風土を感じて、走れーー
えちごときめきリゾート雪月花
群青に白波が立つ日本海のほとり、黄金色の稲穂が風に揺れる田んぼの中、雄大な山々のふもとを、銀朱色の列車が走っていきます。わずか2両編成ですが、新潟の自然の中でひときわ映えるその鮮烈なカラーは、きっと見た人の印象に強く残ることでしょう。「えちごトキめきリゾート雪月花」、この列車は新潟県南部の糸魚川から上越妙高の間を走る豪華なつくりの観光列車です。列車の中は、外見にも増してユニーク。窓が天井まで大胆に広げられているため、乗客はまさに新潟の自然の中を駆け抜けている気分を味わえます。現在、全国的に観光列車が数多くありますが、中でもこの地域は周辺に評価を得ている列車が特に多い激戦区。そのため、えちごトキめき鉄道は、特徴あるコンセプトを模索し、徹底的な検討を繰り返しました。そこで、四季の変化に富んだ沿線の風景を生かすため、車窓を可能な限り確保することに。結果、国内最大級の車窓が実現したのです。設計デザインを統括された川西さんによれば雪月花は「お客さまに新しい視点を提供すること」を目的としており、日本海や妙高山を一望できる席やクラシックな雰囲気が漂う食堂車風の席、世界唯一の前面展望ハイデッキ個室などバラエティに富んだ座席を用意。座る場所によってさまざまな方角、目線の高さから風景を眺められるように設計が工夫されており、新潟の景色を存分に楽しめるのが魅力です。この列車に乗って、いままで知らなかった地域の魅力に気づいたという方も多くいらっしゃるそうです。またそれぞれの座席スペースは、新幹線のグリーン車並みに広く、ゆったりくつろいで旅を楽しむことができます。旅の楽しみの一つである食事は、沿線の食材をふんだんに取り入れたフランス料理や日本料理を提供。「さくらラウンジ」と名付けられた車内のカフェ・バーでは地酒や地ワイン、生ビールも用意されています。高級感を漂わせる車内のしつらえと、地元ならではのおもてなしを備えたこの観光列車は、さながら「走るロビーラウンジ」といったところでしょうか。
新潟の自然を存分に感じられる斬新な設計デザイン。
この列車に乗って揺られていると、さまざまな魅力を発見できます。
本物の木がつくりだす「ここ」だけの体験。
その驚きが、旅を特別な時間にする
この雪月花の車中、内装のいたるところに木が使われています。日本海や妙高山を一望できる1号車のテーブルや壁に用いられているのは、越後杉。黄色の座席の色と相まって、稲穂の風景の美しさを感じさせます。さくらラウンジの壁はカバザクラ。あたたかな飴色がバーカウンターのオレンジ色の照明に映えます。そしてクラシックな雰囲気が漂う食堂車風の2号車の家具や壁には、こげ茶色のブナが用いられ、落ち着いた空間を演出しています。それぞれ昔から雪国新潟の家屋や寺社仏閣などにも使われてきた越後杉、日本三大夜桜の一つとされている高田公園の桜、妙高市などのブナ林といった新潟のシンボルとなる木をイメージしています。地元の木を使うことで、地域の本当の魅力を知ってもらい、興味を持つきっかけになればという想いが込められています。乗客は車窓の美しい景色を楽しみながら、手元の木のぬくもりに触れて、両方から自然を感じるのです。川西さんによれば、実は本物の木を車両に用いるのは、とても大変な試みだったそうです。「鉄道車両はつねに震度2~3の揺れを受けています。また湿気や乾燥、車内外の温度差の問題もありました。そういった厳しい環境下で木にひずみや割れなどが発生しないように、相当な工夫が必要だったんですよ」。大変な苦労をしながら、それでも木を採用された事実からは、地域の魅力を伝えるためのツールとしていかに木が優れた存在だったのかがうかがえます。観光に来られた方は雪月花に乗るたびにきっと、旅の新しい価値と出会うのでしょう。約3時間の旅が「あっという間」に感じられるような空間がそこにありました。
振動などを受ける過酷な環境に耐えられるように、木材を貼り付ける接着剤を改良し、補強工事も実施。このほか安全性への配慮として、鉄道車両向けの特殊な難燃・不燃加工が施されています。一般的には膨大な手間がかかることを避け、内装に木目調プリントシートを貼って、木の雰囲気を演出している列車が多い中、雪月花は本物の木の光沢や質感、ぬくもりにこだわり、ここにしかない価値を実現することに成功しています。