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吉野杉のツリーハウスで地域活性を。近畿大学「TSURiHA」メンバーに聞く、町と奈良の木の魅力

2023.10.20(更新日)

吉野杉のツリーハウスで地域活性を。近畿大学「TSURiHA」メンバーに聞く、町と奈良の木の魅力

「ツリーハウス」と聞くと、子供の頃に憧れた‘森の中の冒険’や‘秘密の隠れ家’を思い出し、ワクワクする人も多いはず。自然とのつながりを感じ、大人も子供も一緒になって楽しめる場所。自分の住むまちにツリーハウスが増えたら、毎日が楽しくなるような気がしませんか?今回ご紹介するのは、奈良県吉野地域でツリーハウスを通した地域活性に取り組む大学生の活動です。

近畿大学建築会学生部会建築研究会の有志で構成された「TSURiHA(ツリハ)」は「吉野の人と人をつなぐ」というコンセプトをもとに、ツリーハウスを通して地域のまちづくりを行なっています。2015年に設立され、大学1年生から3年生までの171人の学生が所属(2023年3月現在)。町の人との交流を育みながらツリーハウスをつくることを活動の主軸に、大学内での家具づくりのワークショップ、完成したツリーハウスでのイベントの開催などを行っています。直近では、2022年11月に吉野で5基目となるツリーハウス『栞』を完成させました。

大阪の大学に通う学生が、吉野でツリーハウスをつくり続ける思いとは。今回は、TSURiHAの代表を務める二杉 晃平さん、副代表の木元 瑛さん、広報の鈴木 志乃さん他、幹部の皆さんに、吉野で活動を続ける思いや実際に吉野杉を使った感想などをお伺いしました。

大学で学んだことを実践する場として始まった活動

――TSURiHAが吉野で活動するようになった経緯を伺えますか?

もともとTSURiHAは、初代メンバーが吉野の自然や町の魅力に惹かれて、大学で学んだ知識や技術を活かして吉野で何か活動ができないかと考えたところからスタートしました。「それならば吉野には木がたくさんあるからツリーハウスが良いのでは」と大学教授のアドバイスで吉野町役場を紹介していただき、そこから製材所、工務店、敷地の候補者の方などたくさんの方に協力していただき、これまで活動を続けてきています。

――最初は何人くらいのスタートだったのですか?

最初は30名足らずのスタートで、ひと学年に10人いない程度でした。それが年々増え続けて今では171人に広がりました。

――実際にツリーハウスが完成するまではどのような流れなのでしょうか?

全体として約1年で完成します。まず、3、4ヶ月ほどかけて、木の太さや木と木の間の距離を測り、ツリーハウスづくりに適した敷地を選定します。敷地が決まると、その土地の条件をもとにTSURiHA内でデザインコンペを開催します。コンペの審査は幹部で行い、その後、半年ほどかけて大学教授の意見も踏まえながら構造的な検討、デザインを進め、最後に合宿で1週間ほどかけて施工する、という流れになります。

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まずはツリーハウスを建てるための調査を行い、敷地の選定をする

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コンペでは実際に模型を作成し、アイディアを発表し合う

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全てが決定したら施工開始

――学生が主体で、コンペ審査も自分たちで行うのですね。ツリーハウスを建てた後も、地域の人とつながりを続けられるのですか?

僕たちはツリーハウスをつくることだけを目的にしているのではなく、ツリーハウスを使って地域の人同士がコミュニケーションをとれる場をつくったり、吉野の人と吉野地域以外の若者をつなげたりして、“吉野を盛り上げたい”という思いで活動しています。ですから、ツリーハウスを建てたあとも完成のお披露目会や、ツリーハウスの下でマルシェやワークショップなどイベントを開催して、ツリーハウスが人と人を結ぶ場となることを目指しています。完成したツリーハウスを見て、僕たちが建てているというクチコミや噂が広がって、「うちにも建てて欲しい」と言われ、継続してその後も吉野でつくり続けることができるようになりました。

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ツリーハウスお披露目会の様子

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ツリーハウスの下で地元の人との交流を図るためのマルシェも開催

2023.10.20(更新日)

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地域に足を踏み入れて初めてわかる、木の魅力、町の魅力

――口コミで活動が広がっていっているということなのですね。地域との関わり方で大切にしていることはありますか?

吉野でボランティアや伝統行事に参加することで、まずは地元の皆さんにTSURiHAを知ってもらい、自分たちの顔を覚えていただいて、地域の方がどんな問題を抱えているかお話を聞くように心がけています。そうすると、若者が少ないということや、子供たちの遊び場所がないなど、町の課題を教えていただけ、そこから自分たちに何ができるかと考えていきます。

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完成したツリーハウス「梓」で遊ぶ子供たち

――地域の中に入り込んで難しいと感じたことはありますか?

地域の方は、部外者の私たちを本当に暖かく迎えてくださり、楽しく活動させていただいています。コミュニケーションで難しいと感じたことはなく、イベントに参加すると、初めて会った方でも「またきいや!」と気さくに声をかけてくださる。1人の人とつながったら違う人にもつながり、一言僕たちが「こんなことがしたい」と話したらどんどん皆さんが協力してくださる。町の人の温かさのおかげで苦労することなく、溶け込めている気がします。

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吉野の役所で開催された「まちごと図書館DIY」というイベントにて。TSURiHAメンバーは工具のコーチングとしてイベントの参加。

――実際に吉野の木を使ってみて、どのように感じましたか?

吉野杉という名前は知ってはいたのですが、吉野に来て、触れてみて、においをかいで初めてその良さを実感しました。製材所の方には、パンフレットなどで歴史があることや吉野杉がブランドということを説明していただいたのですが、本当にすごいと思ったのは、製材した時の木の香りや触れた感触の柔らかを感じたときです。また、ツリーハウスを施工している時には、木の力強さを一番に実感しました。

吉野杉は生きている木も、製材された木もどちらもとても素晴らしいと思います。それを感じられるのがツリーハウスの魅力で、立っている木の力強さも、製材された木の香りや美しさも感じることができる。木なので硬い、でも柔らかい。自分たちで実際に触れて、初めてその魅力を実感しました。

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――今回のツリーハウス『栞』の特徴を教えていただけますか?

『栞』のコンセプトはまず、子供も遊べるようなツリーハウスが欲しいという、敷地主さんからの希望を受けてつくることになりました。
ツリーハウスは木に依存して建てるため、何年か経つと木が弱ってしまい、しばらく休ませてあげなければいけません。そのため、僕たちはツリーハウスを5年周期で解体するサイクルにしています。今回は、敷地所有者の山下さんが、5年後の解体時に、使用していた木を市場に出すとおっしゃっていたため、できるだけ材をいためないよう、ボルトを打たない「サンドイッチ工法」を採用しました。

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このような木の組み方や、高い位置での施工のための足場の組み方なども、工務店、製材所、大工の方など様々な方に教えていただきながら完成させることができました。
価値のあるものを大切にしてその先も使い続けられるように、木の使い方、つくり方から工夫するということも非常に勉強になりました。今回の『栞』は2017年に施工した『錦』を解体したすぐそばにつくったのですが、解体した材を再利用しながらつくりあげました。

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――木の価値を大切にとらえて、使い続けるよう心掛けているのですね。町の人との交流を通して、自分たちの中での発見や気づきはありましたか?

小さなエリアの中で過ごしているからこそ、色々な人がつながっていて、人助けの精神や、皆さんがとても親切で心の距離が近い感じがします。これは僕たちが暮らしている大阪のような大きな都市にはないものだと感じました。
あとは、町の方が吉野杉に対する誇りを持っていることが特に印象に残りました。自分の敷地内に立っている立派な杉を放置するのではなく、「この木はいつか製材できるから」と木にテープを巻いて置いてあるといったことが多くて。製材所の方や林業家だけが吉野杉を守ろうとしているわけではなくて、町全体で吉野杉を守っていくという姿勢がすごくかっこいいと思いました。
そして、それは今売れるものではない。次の世代に残して大切にしていく。お金を稼ぐだけではない、未来につながる生き方だなと思って、そうやってこの町は木と共に生きてきたんだということを感じました。

2023.10.20(更新日)

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体験する魅力を新たな観光資源に、自分たちで伝えていきたい

――吉野の地域で活動してみて、改めてこの地域の可能性をどのように感じましたか?

吉野は観光で行かれる方が多いと思います。僕もTSURiHAに入る前は、桜や観光名所を見に行くといった「見る」ことを目的に訪れていました。今では山の中に入って施工して、見るだけではないさまざまな体験に魅力があると感じています。日常生活とかけ離れた自然豊かな空間で、時間がゆっくり流れていること。そういうのは、「来たらわかる」という言葉でしか伝えられないのですが(笑)。山の中に入って触れてみないと分からない良さがあることを伝えていきたい。コロナ禍で家の中にいることが多くなってきた時に、体験することの大事さに僕たちも気がついて、その体験を吉野で新たな町の可能性として広げられたらと思います。

――林業の魅力についてはどのように感じましたか?

大学では建築を座学で学んでいたのですが、吉野に行ってツリーハウスや机や棚などをつくってみて、建築を学んでいる実感がここで初めて得られた気がします。これまでは林業の仕事って、しんどそうとか、重いとか、ネガティブなイメージもあったのですが、道具を使えるようになったら自分で物もつくれるようになるし、実際に地域の人、工務店や製材所の人と身近に関わることができて、すごく魅力的な仕事だと感じるようになりました。自分の生活でも、棚が壊れてしまったら「こうやって直せるのではないか」とか「こうやってできているんだ」と発見ができるようになりました。ものがどうやってできているかにも興味が湧いたことはすごく良かったと思います。

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――実際に体験することで林業のイメージも変わったということですね。今後、林業の課題をどのように解決したら良いと思いましたか?

林業って、自分で調べてみないと分からない。きっかけがないと、知る機会もありません。でも、実際には林業を知ることで生き方や暮らしに役に立つことがたくさんあります。もっとたくさんの人に林業を知ってもらいたい。こんな魅力的な仕事で、こんな人たちが真剣に山や自然を守り暮らしてきたからこそ、町があるということを伝えていきたいです。山を管理することで災害を防げますし、綺麗な水がつくりだされる。TSURiHAが吉野の町や林業を知るきっかけづくりをしていきたいと考えています。今は制作段階ですが、チラシやパンフレットをつくり、それを近大や吉野に置かせてもらう予定です。まずは知ってもらうところから、自分たちでできるきっかけづくりをしていきたいと思っています。

――最後に、吉野での活動を通してどのようなことを伝えていきたいと思っていますか?

学生だからこそできる地域貢献があると思っています。学生でしかできない価値をつくりだしていきたい。若者と吉野をつなげる存在になりたいと思っています。具体的には、吉野に訪れて吉野杉を感じる場所をつくりたい。木が立っているだけでなく、製材されたものに触れる機会を提供したいと思っています。
また、僕たちのツリーハウスをSNSなどで見て、「ここに行ってみたい」と思ってもらい、吉野に訪れる人の数を増やしていきたいです。よそから来る方だけでなく、地域の子供たちも遊べるようなツリーハウスをつくってみんなの居場所を増やしていけば、子供たちの声が聞こえるような町になる。大人も子供も木を通して集まる場所。学生の僕たちがそういった町づくりのお手伝いをしていきたいと思っています。

学生たちが、目を輝かせながら語る吉野の人のこと、吉野杉のこと、そしてこの町の未来。木に触れる体験を通して木の魅力を感じ、林業の課題を自分ごととしてとらえ地域活性を目指していく。学生たちの熱い思いは、今後の林業の希望になる気がします。
木はそのまま立っているだけでなく、人の手を通すことで、関わった人たちの心を結び、人を集める新たな価値を生み出します。
地域活性化のため、林業のために自分たちにできることは何か。真剣に考え、形をつくっていく学生のように一人一人が考えていけば、自然と人との共生、この先の豊かなまちづくりを実現していくことができるのではないでしょうか。
こういった活動が広がり、町の風景が変わっていくことを楽しみにしたいですね。

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