2023.09.22(更新日)
木の国にっぽんで約500年続いてきた奈良の林業を支える若手に聞く「今とこれから」
「国産材を使えばいいのでは?」と簡単に思う方もいらっしゃいますが、そんなに単純ではありません。現在、林業は所有者や境界が不明の山が多いことや、山林の管理が行き届いていないなど多くの課題を抱えています。また、林業の担い手が少ないことも深刻な問題となっているので、急に流通量を増やすことは難しい状況です。
国産材における林業の現実とは?
今回は、奈良の林業の担い手であり、これからの林業のことを考え、木にまつわる新たな事業にも取り組まれている「豊永林業株式会社」の中前さんと「森庄銘木産業株式会社」の森本さんのお二人に、豊永林業株式会社の仕事場の山林にお邪魔して、お話を伺いました。
インタビュー:中前 徳明さん(豊永林業株式会社)、森本 達郎さん(森庄銘木産業株式会社)
左:中前 徳明さん(豊永林業株式会社) 右:森本 達郎さん(森庄銘木産業株式会社)
――奈良の林業について、現状はいかがしょうか?
森本 達郎(以下、森本) 山林の仕事でといえば、今は“植えるフェーズ”でないのが現状です。林業は、[ 地ごしらえ・植林・害獣対策・下草刈り・除伐・枝打ち・間伐(※1) ]という工程で木を育てていきます。しかし、今はほとんど植林をしません。よく「なんで伐るのに植えないの」と聞かれますが、植えなくていいような管理をしているからです。そもそも木の時間軸は100年や200年。それくらいの長い時間をかけて育てていくものなんです。ですから、次に大規模な植林をするとすれば、山によりますが20年から70年後ぐらいになるかと思います。それまでは、しばらく間伐をする期間ですね。
中前 徳明(以下、中前) この目の前にある木が120年〜130年くらいですから、200年まで待つとするとそれぐらいかな。確かに、森本さんの言う通り、苗木を植える必要がないのが現状です。良い木を選びながら残しながらの間伐が、奈良のやり方ですから。
森本 木材の良し悪しで悩めるのは奈良の林業のいいところかもしれないですね。収益とバランスを見ながらも、良い木を残すことが大事ですね。
※1間伐
苗木が育ち隣接する木々の枝や葉が重なりあうと日光が遮られるので、木の成長のために、木を間引く作業。地面に日光が届くと、下草や中低木が育ち、木の成長とともに根がしっかり地面に張り、土砂崩れが起こりにくくなる。
豊永林業株式会社が管理する山林
時代とともに変化する林業のかたち
――お二人は林業に従事されて何年でいらっしゃいますか?
中前 約25年になります。豊永林業株式会社は、現在で十七代目となる山主さんが持つ1500㏊を管理しています。木を育てて山に道をつけて、人に届けるということをしている、いわゆる“山守”です。私が入社した当時は、間伐する木を選んで鉈(なた)で木の株を削り刻印を打つ“選木調査”や、植栽、下刈り、除伐作業などの撫育事業の管理が主な業務だったので、私たちが自ら木を伐ることはありませんでした。木を伐る専門業者をはじめ、林業に携わる方がたくさんいらっしゃいましたが、職人さんたちの高齢化もあり廃業された方もいるし。時代はどんどん変わっていきましたね。
森本 森庄銘木産業株式会社は、森林管理や林業活性化事業、磨き丸太と呼ばれる銘木などの製造販売をしています。家業である今の仕事を始めて今年で3年目です。中前さんのおっしゃっていることは、祖父や父から昔の話を聞いていたのでよくわかります。第二次世界大戦後の建築ラッシュで木材が必要になって、国内の木を伐りつくした。気づけば樹齢15年以下の若木ばかりで、建材として使える木が枯渇したため、輸入が解禁。それまでは、輸入材のほうが高価でしたが、値段が下がったことで海外の木を使うのが主流になっていった……。ただ、皆さんが思うより、国産材は安いです。だから現状は林業だけで食べていこうと思うと難しいです。補助金もありますが、無ければ赤字でしょう。
中前 海外の木材がダメだとはいいませんよ。でも、ものの良さで選ばれるのではなく、値段で選ばれる価格競争になるとね。安い方が良い時代が続きましたから。ですから日本の木材、奈良の木材には、他とは比べられない良さをアピールして、SDGsにも絡めていくと価値も上がるので良いのではないかなと思っています。とにかく、補助金をあてにして何もしないということではダメだと思っています。
スギ(右)ヒノキ(左)の新芽
豊永林業株式会社が管理する山に整備した作業道
――それで、新たに木製品を直接消費者へ販売するECサイトを立ち上げられたということでしょうか?
森本 奈良の木のプロダクトを世の中に伝えるというのは、今までずっと意識をしてきました。かつて、祖父も和紙を貼った木製の行灯ランプを作ったりしていましたから。エンドユーザーが使うものを販売すると、暮らしのいろいろな部分で消費者の方とつながることができます。それで自社ブランド「MORITO」を立ち上げました。
――どんなプロダクトがあるのでしょうか?
森本 奈良県産の木を使った磨き丸太のスツール、一枚板のテーブル、カッティングボードなどがあります。自社で作る作品のほかに、奈良県内の作家さんがつくるインテリアや雑貨も販売しています。
「MORITO」で販売している「森の丸太スツール」2種
2023.09.22(更新日)
木の国にっぽんで約500年続いてきた奈良の林業を支える若手に聞く「今とこれから」
――豊永林業は、2021年5月に木製品を扱うショップ「rin+(りんプラス)」をオープンされましたね。
中前 木を伐って市場までは持って行くんですけど、私たちはユーザーさんに直接繋がってないので声も聞いてみたいし、今世の中には木を使うことに対してどのような需要があるのかを知りたいと思ったことがきっかけです。近くの木工作家などに協力していただいてスピーカーとかカッティングボードとか、自社で製材機を買ったのでそれを使って、間伐材でプロダクトを作っています。国際的な基準で持続可能な森林経営を行い、健全な森林育成を保障する「SGEC森林認証システム(※2)」を取得している山林の間伐材を使っているので、そこにも注目をしていただきたいと思っています。
※2 SGEC(Sustainable Green Ecosystem Council、和名:『緑の循環』認証会議))森林認証システム
国際的な基準を用いて持続可能な森林経営を行っている森林を認証するシステム。森林の所有者や管理者が取得することで、日本の森林管理のレベルを向上させ、豊かな自然環境と木材生産を両立する健全な森林育成を保証するもの。
――商品はどのようにして作られているのですか?
中前 周りの人々の助けはもちろんですが、社内で会議をしながら決めています。自社で管理する山から伐り出したヒノキのアロマオイルとかクロモジの蒸留水とか、今度はプランターをつくってみたりして、アイデアを出しながら製作をしています。
「rin+(りんプラス)」の店舗
林業家と消費者を繋ぐ、これからの未来
――林業のこれから、お二人がしてみたいことはありますか?
中前 最近、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、短期間で急激に木材不足になって価格の高騰が起きる「ウッドショック」について取り上げられているニュースをみて、市場の値段がちょっと上がっているけど、値段が上がっているのは、ヒノキでも節が残っている(一般に流通している)材だけで、節の少ない良質な材を主に市場に出している私たちには関係ないなと思っていました。でも、国産木材が注目されているのは確かです。そのことは大事に思いたいし、せっかくなので山の中でワークショップをしたり、奈良の木のことをもっと知っていただく体験などもしていきたいと思っています。例えば「残し木」と呼ばれる樹齢数百年の木もあります。残し木は、昔の人が良い木だから将来お金になるだろうと伐らずに残しておいてくれた木で、長い年月をかけて育った木の生命力を感じさせてくれます。そういう木を見ていただくのもいいですね。
森本 私は、継ぐことができたら四代目になります。先ほどの残し木のお話は、樹齢数百年とまではいかなくても私も実感があります。今、仕事で入っている山は先代が育てた山です。もしかしたら木が高く売れる時代にすべて伐れば、売ったお金でいい生活ができたかもしれない。それを祖父も父も間伐して残していくという道を選んだ。ある意味残し木です。先代が託してくれる、「託し木」という感覚もありますね。
中前 奈良の木の魅力は「継承」にあります。そういった残し木や託し木という奈良の木の文化の素晴らしさを、rin+(りんプラス)からも発信したいです。
森本 林業の「今」にも関心を向けてもらいたいですね。吉野スギや吉野ヒノキと聞けば、まず値段が高いというイメージを持たれますが、海外の木材と比べてとんでもなく大きな差があるわけではありません。林業は、何世代にもわたって継承されてきた部分と、時代と共に変化してきた部分、両方あわせ持っているので、それぞれ知っていただけると嬉しいです。
私達の世代は、今、先代から託されている側の立場です。それを次の世代に託し続けていくために、林業家から消費者まで、山を思いやる“仲間づくり”をしていきたいと思います。
樹齢数百年の残し木
INFORMATION
rin+(りんプラス)
住所 | 奈良県吉野郡黒滝村粟飯谷1道の駅吉野路黒滝内 |
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URL | https://www.instagram.com/rin_plus_shop/ |
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運営 | 豊永林業株式会社 |
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