2023.09.22(更新日)
割り箸ってサスティナブル?「吉野の割り箸」がエコな理由
その背景として大きいのは、持続可能な開発目標を指すSDGsでしょう。2030年までに達成するために掲げられた、国連加盟国の国際目標です。
サスティナブルな社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることについて考えてみませんか。今回提案したいのは、日本人の暮らしの中でも身近な「割り箸」。
「割り箸ってエコなの?サスティナブル?」。そんな風に思った人は、ぜひ読んでみてください。
「もったいない」から生まれた、吉野の割り箸。
割り箸の発祥の地は、奈良県・吉野地域にある下市町(しもいちちょう)といわれています。
日本では、奈良時代には箸が一般化していました。その後南北朝時代、吉野の皇居にいた後醍醐天皇に下市の里人が杉の箸を献上したところ、後醍醐天皇が美しい木目と芳香を気に入り、朝夕愛用したことで公卿(くぎょう)や僧侶も使うようになり、箸が広まったと言われます。
そして江戸時代、酒樽の材料(樽丸)に使われる吉野スギの端材が捨てられるのを惜しんで考案されたのが吉野の割り箸です。吉野スギは節が少なく木目が細かいため水が漏れにくく、酒樽をつくるのに最適な木材として重宝されました。また、上方の酒は酒樽に詰められて船で江戸へと運ばれる間に吉野スギのほのかで上品な香りが酒に移ることから、江戸の人々に喜ばれました。そうして吉野林業は“樽丸林業”として発展していったのです。
さらに明治時代、下市の寺子屋の教師・島本忠雄が二本箸で一膳の松葉型の割り箸を考案。商品化され、東京の箸商人が全国へと広めました。
現在でも、下市町や吉野町など吉野地域を中心に、吉野の割り箸がつくられています。その材料は、樽丸に代わって、吉野スギや吉野ヒノキの間伐材を建築用に製材した後に残る、「これ以上は使えない」という外側の端材を利用しており、割り箸をつくるために木を伐採しているわけではありません。
木材を余すことなく使用した吉野の割り箸は、製造過程で出る木くずも、断熱材や壁紙、植生マット、入浴剤などに活用されています。さらに、使用済みの箸も工場の燃料にしたり、紙の原料にしたり、最後まで有効活用することができます。
このように『吉野の割り箸』は、“もったいない”の精神から生まれた、まさにエコなアイテムと言えるでしょう。
箸の製造工程で残った木くず
木目が細かく美しい、良質な木を使用
吉野の割り箸が間伐材の端材からできていると聞いて、「細い木や質の悪い木を使用しているのでは?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
吉野林業では、密集して植えることで木が太くなりすぎず、上部と下部で太さがあまり変わらないまっすぐな木が育ちます。そして長い年月をかけてゆっくり育てながら少しずつ間伐を繰り返すことで、年輪幅が細かく美しい木目になっていきます。
密植による自然な枝枯れや枝が細いうちに打ち落とすことで、節もほぼありません。吉野の間伐材は、一般的な間伐材とは異なる、とても良質な素材なのです。そしてこの間伐材を加工したあとに出る端材を使って吉野の割り箸がつくられているのです。
さらに、吉野の割り箸に使っている木の外側の部分は、色が白く、木目が均一なので、使うときにきれいに割れることが特徴です。また、年輪が密であることから、吉野スギや吉野ヒノキの箸は強度があります。
余すことなく使い切るのが「吉野の割り箸」の精神
工場入り口に掲げられた割り箸づくりに込められた想い(吉野製箸 小林)
では、『吉野の割り箸』はどのような工程でつくられているのでしょうか。
原料は、製材所で製材された後に残る端材の「木皮(こわ)」という木の外側の部分を使います。節や腐った部分があると箸の材料として使えないため、なかでも節のない良質な材を最初に選別します。箸の長さにカットし、柔らかくするため8~10時間水に漬けます(ヒノキの場合は3~5時間煮沸)。その後、箸の形に加工し、角をとり、乾燥させます。最後に磨きをかけて完成です。機械を使うとはいえ、ボタンを一回押せばあとはすべて機械がつくってくれるわけではありません。いくつもの工程と手間暇をかけて、割り箸はつくられているのです。
吉野製箸工業協同組合 | YouTubeより
吉野製箸工業協同組合 | YouTubeより
さらに、吉野の割り箸の品質チェックはとても厳しく、熟練のスタッフが目で見て手作業で検品し、等級ごとに細かく分類していきます。商品として出荷されるのはその厳しい基準をクリアしたものだけなのです。
いくつもの工程を経て完成した吉野の割り箸
また、箸づくりが盛んな吉野町の小・中学校では給食に割り箸を使用し、使い終わった割り箸は回収して製紙工場へ送り、紙の原料として活用しているそうです。
長い年月をかけて大切に育てられた木だからこそ、余すことなく使い切るのが『吉野の割り箸』の精神。間伐材を余すことなく使うので、森の循環にもつながります。「吉野材を使った高級割り箸だから、などと遠慮せず、どんどん使ってほしい」というのが箸づくりに関わる人たちの思いです。
後継者不足や需要減少などの課題も抱えている
良質な木を余すことなく活用したサスティナブルな割り箸――。いいことだらけの『吉野の割り箸』ではありますが、課題も抱えています。
その一つが、後継者不足の問題です。若年層が都市部へ流出し、人口減少や高齢化が進んでいます。また、安価な外国産木材の輸入増加により、国産木材の供給量が減少し、割り箸の材料となる木皮の元や吉野材の生産量が減っていることも課題のひとつ。
さらに、コロナ禍で人々の外食の機会が減って飲食業界が不振となり、割り箸の需要が激減していることも課題となっています。
地球環境に意識を向けるのに適したアイテム
毎日行う食事に欠かせない箸は、私たち日本人にとって身近な存在です。そのなかでも割り箸は、地球環境に意識を向けるのに適したアイテム。
『吉野の割り箸』は単なる地域産業ではなく、吉野地域の人々の木を大切にする心や、もったいない精神を象徴する文化と言えるでしょう。木材を余すことなく活用することは地球環境にやさしく、SDGsにもつながります。
サスティナブルな社会の実現に向けて、まずは吉野の割り箸を使うことから始めてみませんか?
INFORMATION
吉野製箸工業協同組合
所在地 | 〒639-3434 奈良県吉野郡吉野町国栖100 |
---|---|
電話番号 | 0746-36-6838 |
URL | http://www.yoshinowaribashi.com/ |
---|
INFORMATION
吉野製箸 小林
所在地 | 〒639-3446 奈良県吉野郡吉野町菜摘526 |
---|---|
電話番号 | 0746-32-1184 |
INFORMATION
竹内製箸所
所在地 | 〒639-3437 奈良県吉野郡吉野町南大野381−1 |
---|---|
電話番号 | 0746-36-6823 |