2023.09.22(更新日)
地域に新たな交流を生み、未来をつくる!共創の場づくりとそこに活きる奈良の木(β本町橋・MiiMo編)
【β本町橋】
2021年8月、大阪の中之島と道頓堀をつなぐ東横堀川にかかる本町橋のたもとにオープンした「β本町橋」。東横堀川の水辺のまちづくり活動を16年続けてきた仲間で立ち上げた「一般社団法人水辺ラボ」が、時代とともに変化する「まち」で、さまざまな人々をつなぐ拠点として立ち上げた“水辺の実験基地”です。
「β本町橋」には、気軽に楽しめるクルーズやSUPといった水辺ならではのアクティビティからセミナーやヨガなどに使えるレンタルルームまで、「遊ぶ」「働く」「学ぶ」「暮らす」喜びが感じられるような、さまざまな人をつなぐ仕掛けがたくさん。平日にはオフィスワーカーがランチに、休日は近隣に暮らす人々が散歩に訪れ、野菜や書籍の販売、バラエティに富んだ各種イベントを楽しむなど、水辺のまちの交流地点として親しまれています。
オープンから1年、地域の方の憩いの場としてはもちろん、建物の佇まいに惹かれ施設を覗かれる方もいらっしゃるという「β本町橋」。訪れた方々の反応や施設に奈良の木を使っていることによる影響とは、どういったものなのでしょうか?「一般社団法人水辺ラボ」の理事を務める廣井 真由美さんにお話を伺いました。
「私たちが活動をスタートしてからの16年の間にこの界隈の景色も随分変わりました。もともとはオフィス街で働く人中心の町でしたが、高層マンションやホテルがたくさん建つようになって。そうした町の変化を受けて、元々この地域に住んでいる方と新しく住み始めた方、そして周辺オフィスで働いている方といったさまざまな人をつなぐ架け橋として水辺のまちづくり活動を行ってきました。その拠点として、β本町橋が立ち上がりました」
「β本町橋の建物は、ほとんどが木とガラスで出来ています。街の中でも目立つのか、惹き寄せられるようにいらっしゃる方も多く、建物に入ると初めて会った方同士でも自然と会話が生まれる、誰もが受け入れられる開放的な空間になっています」
「施設の中に入られた方がよくおっしゃるのが、木の香りですね。オープンから1年経った今も奈良の木の香りが漂っていて『すごく癒される』という声を聞くこともあります。また、吉野桧で出来ている階段も好評です。靴を脱いで上がるととても気持ちが良く、手すりも手触りがいいんです。この建物のオープンの2日前ぐらいまで、みんな靴を脱いでスリッパとかで上がっていたぐらい木に対する愛着があって、あの足の裏の気持ちよさというのはすごく大事にしてる感覚ですし、子どもさんがよく裸足で遊んでいるのを見ていて『気持ちがいいだろうなあ』と微笑ましくなりますね。『吉野の木が使われているんですよ』と紹介すると、みなさん『やっぱり。だからこんなに木目が綺麗なんだ』とおっしゃるところにも、奈良の木のイメージやブランドの力を感じています」
「β本町橋」の建設・設計にはどんな工夫が施されているのか。また、奈良の木を建築材として使ってみてどんな感想を抱いたのか。「MIST+高橋勝建築設計事務所」としてβ本町橋の建築設計監理を担当された、MIST井上真彦さんと高橋勝建築設計事務所の高橋勝さんにお話を伺いました。
井上真彦さん「β本町橋の設計にあたって、『日常の中にある水辺の施設』をつくりたいという廣井さんたちの想いにどのように答えることができるかを考えました。これまでも大阪の水辺の施設開発はいくつかありましたが、それらは人々が住む街からは少し離れた場所にあり、カフェやギャラリー、結婚式場といった“ハレ”の場がほとんどでした。しかし、β本町橋の予定地は街の中の生活に近い場所にあったので、地域の人々の日常を豊かにするような施設にすることを共有しながら進めました」
井上真彦さん「水辺と公園と道路という高さの異なる3つの空間をどのようにつなげ、一体化するかという点も設計するうえでの大きなテーマになりました。例えば1階の天井を道路面よりも高くすることで、道路からは施設内の様子が、施設の中からも道路の街路樹の緑が見えるようになり、内と外、上と下が分断されずつながっているような空間の一因となっています」
高橋勝さん「この敷地は、東横堀川の護岸のため、杭が打てない。となると、選択肢は軽量鉄骨造と木造の2つ。それならば絶対に木造だという話を井上さんとしていました(防火地域内のため耐火木造としています)。今回まちづくりメンバーの方のつながりから柱梁型の仕上げに吉野杉を使用しているのですが、大変素晴らしい木を入れていただいて。僕は普段京都を拠点に仕事をしていて、手がけているものもほぼ木造建築なのですが、京都には北山杉などの一大産地があるにも関らず、仕上げの表に見えるスギは吉野杉を選ぶ棟梁が多いです。木目が非常にキメ細やかで美しく、吉野の木を使用することで上質な空間になるというのは僕も感じています」
井上真彦さん「公園や街にいる人たちが気軽に立ち寄れる日常の施設である上で、温かい木の表情が効果的に作用してくれているのではないかと思います。木目が非常に綺麗な吉野の木を入れていただいて非常に良かったと感じるのは、都市の中にある施設として景観に馴染むということ。杉や桧は和のイメージがあり、節が多い杉を多用すると街の中で唐突な印象になるのではないかと危惧していたのですが、今回は色味を塗装で調整したこともあって都市にも馴染み、杉の使い方として新しい提案ができたのではないかと思っています」
高橋勝さん「建物を建てるというのは、ひとつの“祭り”のようなものだと考えていて、今回β本町橋を建てるにあたって、昔からある風景を復活させたいという思いから地鎮祭や上棟式を行いました。大都会の中でいきなり木造建築の建て方(※)が始まるというのは、なかなかインパクトがあったでしょうし、みんなの思い出に残るような造り方ができたんじゃないかなと思います」
(※)建て方・・・・・・現場で主要な構造材を組み立てること。土台の据付から柱、梁、棟上げまでの作業工程。
2023.09.22(更新日)
地域に新たな交流を生み、未来をつくる!共創の場づくりとそこに活きる奈良の木(β本町橋・MiiMo編)
【三宅町交流まちづくりセンターMiiMo(みーも)】
2021年12月、奈良県磯城郡三宅町にオープンした、「三宅町交流まちづくりセンターMiiMo(以下、MiiMo)」。『子どもも大人も自分ごととして関わり、まちのみんなができること・やりたいことを積み重ねながら、三宅町の未来を育むまちの拠点』をグランドコンセプトに掲げる複合施設です。
町の施設の老朽化等の複数の問題を解決するにあたり、町民の方々の利用に主眼をおいた施設をつくるため、施設の構想段階から町民の方とともにワークショップを行うなど施設機能の検討を何度も重ね、ホールや会議室のほか、図書フロアやシェアキッチン、コワーキングスペース、放課後児童クラブや子育て支援に関する部屋など様々な利用者のニーズに応える機能を備えた施設が完成しました。
大きな屋根が特徴的なこの施設を設計するにあたって意識されたポイント、また奈良の木を利用した経緯と感想について設計を担当されたGEO-GRAPHIC DESIGN LAB.の前田 茂樹さんに伺いました。
「MiiMoは、これまで別々の建物だった公民館、放課後児童クラブ、子育て支援センターが、大きな一つの屋根の下に一緒に同居しているような場所にしたいと思って設計しました。環境デザインという視点からは、半屋外空間や屋根の『向き』は最も重要な要素です。大屋根の下の大階段は、自然の地形のように雨の日でも子どもたちが遊べる場所を創り出しており、ここから直接広場に出ることもできます。また、様々な飲食店が日替わりで飲食物を販売するMiiMo食堂を大屋根のある広場側に設け、通りがかった町民の方がふらっと立ち寄れて滞在できる場所になればと思いました」
「もうひとつ意識したのが、町民の皆さんの活動を皆で見守るような場所にしたいということです。MiiMoを設計する際に、以前の施設は各部屋が独立していてどんな活動が行われているのか見えにくいという意見があったため、1階の間仕切りをなくし、そこに多目的ホール(MiiMoホール)を設置することで、どんな活動が行われているか、訪れた方にも見えるようにしました」
「MiiMoでは、大屋根の軒天井と、1~3階の床に奈良県産材を使用しています。大屋根は奈良の杉材を用いることで、唐招提寺の軒下のような、かつての奈良の公共空間のようになればと考えました。また土足でも入ってこられる場所に吉野杉を取り入れることで、公共建築らしさを無くし住まいのような居心地をもつ場所に感じてもらえればという狙いがありました」
「建物が実際に使われだしてから約1年ですが、軒については日射が当たらず雨がかからないこともあり、経年して変色することもほぼなく、奈良の木はMiiMoを象徴する空間づくりに寄与してくれています。また床材についても、加工技術により表面強度を増した杉材を使用しているので、ヒール跡なども全く残らず、いい状態を保てています。この加工を施した床材が公共建築にもっと採用されればと思います」
居心地が良く、多様な機能をもつMiiMoは、それぞれの機能を目当てに来られるだけでなく、今までになかった流れが生まれているそう。運営を担当されている・三宅町政策推進課の松田大樹さんに、MiiMoがどのように利用されているか、訪れた方の反応などについてお伺いしました。
「利用者の方々には『キレイ、おしゃれ、居心地がいい』といった声をいただいています。人工芝の広場で毎日子ども達が遊ぶ声も響いていて、『活気があるので好き』と言ってくださる方もいらっしゃいます。
従来から町の施設を利用されていた方が、そのまま継続してMiiMoを利用されることは想定していたのですが、それだけでなく、子育て支援ルームに小さな子どもを連れてこられた方が帰りに図書フロアで本を借りて、その後シェアキッチンで営業されているパン屋さんでパンを買っていくという、今までにない人の流れが生まれています。また、放課後に子どもたちが遊びにきたり、自習室で勉強したり。加えて、某有名企業の研修会やイベント会場としての利用なども増え、それに伴って町内外からいろんな世代の方にお越しいただいています」
施設の利用にあたっては、一緒に地域を元気にしてくれる「MiiMoクラブ」という会員制を採用。そちらへの登録もさらに増えてくれればと松田さんは語ります。
「MiiMo屋内のデザインのベースともいえるフローリングは、ほぼ奈良の木でできています。そのため、『温かさがある』と言っていただくことも。建物の大きな屋根の下、天井も奈良の木です。2階のテラスに出ると木目も見えるんじゃないかというくらい、木を近くに感じることができますので、眺望が良いことと併せて2階テラスが人気スポットになっています」
「MiiMoは現在子どもからご年配の方まで幅広い年代の方にご利用いただいています。ただ、『三宅町交流まちづくりセンター』という施設名のとおり、町内外関わらずもっと人の交流が生まれるように取り組みを続けなければとも思っています。
MiiMoのグランドコンセプト実現のため、『やりたい』を実現できる場所になればと考えていますし、行政だけでなく、公民共同による運営を目指していますので、『やりたい』という気持ちをお持ちの方がもっと増えればいいなと思います。
MiiMoは『やりたい』を実現する場所で、我々は、みなさんの『やりたい』に伴走し、応援する立場。そのサイクルが上手く回って、利用する人が楽しく生き生きされていたら、さらに人も集まりやすくなるのではないかと考えています」
地域の方たちの豊かな暮らしを助長する町づくりの施設。そこにある奈良の木の存在は、今日も癒しやくつろぎを人々にもたらしているようです。後編では、大和ハウスグループみらい価値共創センター コトクリエをご紹介します。
2023.09.22(更新日)
地域に新たな交流を生み、未来をつくる!共創の場づくりとそこに活きる奈良の木(β本町橋・MiiMo編)
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地域に新たな交流を生み、未来をつくる!共創の場づくりとそこに活きる奈良の木(β本町橋・MiiMo編)
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